去年と違い今年の関東大会は北関東で開催されたため、涙を飲んで観戦を断念した。

 日帰り可能な距離とはいえ、東京で電車を乗り継ぎ、最寄り駅から会場までは更にバスに乗るのだ。ひとりではちょっと怖い。

 県大会で優勝したたけちゃんは既に全国大会の出場権を得ている。家で勉強しながらおとなしくたけちゃんの帰りを待とう。

 最近は受験生の兄よりも私の方が真面目に勉強をしていて、そのあまりの変わりようにお母さんは動揺した。

「のぞみにはたける君がついてるからどんなに馬鹿でも将来の心配はしてなかったの。なのに急に勉強しだすんだもの‥‥ついにたける君に見捨てられたのかと不安になっちゃって‥‥」

 普通親なら子供が勉強を頑張ってたら喜んだり安心したりするんじゃないのか?たけちゃんに見捨てられることを不安に思うって‥‥なんかずれてる気がする。

 私の夢は昔からたけちゃんのお嫁さんになることだった。たけちゃんがいればそれだけで満足で、それ以外はどうでもいいと思っていた。

 学年の違う私達は当然クラスも別々で、たけちゃんのいない学校の授業はなんの楽しみもなく、苦痛以外のなにものでもなかった。勉強なんてやる気になるはずがない。

 だが今は違う。たけちゃんと同じ高校に通うという目標があるから、勉強が何よりも優先されるのだ。

 これまで散々さぼっていた遅れを取り戻すためにも、夏休みの間で中1の範囲を完璧にしておきたい。先生が言っていた通り、時間はいくらあっても足りなかった。

 たけちゃんが頑張っていると思えば、私も頑張れる。普段はたけちゃんの練習についていってるから家で勉強するのは夜だけだったが、その日はいつもより集中して勉強に取り組めた。

 夕方喉が渇いて集中が切れスマホを確認すると、たけちゃんからメッセージが届いていた。

『5位入賞だった』

 ああ、これは多分落ち込んでるな‥‥そう感じた私は、たけちゃんが帰ってきた頃を見計らって隣の家を訪れた。

「たけちゃん、試合、お疲れさま」

「ああ、うん」

「今日は応援行けなくてごめんね?でも次の全国大会は絶対行くから、またかっこいいとこ見せてね?」

「‥‥‥‥ああ」

「私も今日はすっごく勉強頑張ったんだよ。英語と数学はもう中1の範囲はほぼ完璧!でも古文がなんか苦手でさあ‥‥」

 私が延々と話し、たけちゃんが相槌を打ちながらそれを聞く。そうしている内にたけちゃんのスイッチが前向きに切り替わる。

 どうしてなのかはよくわからないけど、話し終わる頃にはいつもたけちゃんの顔がスッキリしてるんだから、理由なんてどうでもいい。