とにかく私はその日から真剣に勉強に取り組み始めた。これまでまともに勉強したことのなかった私は、正直何から始めればいいかもわからず途方に暮れてしまう。

「私、桃蔭学園に行きたいんです。どうしたらいいですか?」

 翌日学校で担任に相談したら絶句され、理由を説明したら苦笑いされた。

 それでも一応アドバイスをもらい、とりあえず中1の範囲からやり直すことになる。

 もし本気で桃蔭を目標にするなら時間はいくらあっても足りないと言われたが、柔道部の見学は絶対にやめられない。その時間は暗記科目に費やすことにした。

 期末テストで結果を出さないと出禁の可能性もあるかもしれないが、私はテスト勉強を諦めて、ひたすら中1の範囲を復習し続けた。

 だが、国語や数学とくに英語の点数がそこそこ上がり、先生も驚いたが私が一番驚いた。何事も基礎って大事。おかげで出禁は免れた。

 たけちゃんも順調に県大会へと勝ち進み、夏休みに入ってすぐ応援しに行った。

 普段ももちろんかっこいいけど、試合の時のたけちゃんのかっこよさは半端ない。

 背が高い分細身なたけちゃんが、素人目には何が起こったかわからない程のスピードで技をかけては相手を投げ飛ばしていく‥‥本当惚れ惚れする。

 乱れた柔道着からのぞく胸板はセクシー過ぎて、中学生の私にはちょっと目の毒だ。

 小学生の頃からずっとたけちゃんを見てきたけど、柔道のことはほぼ何も知らない。ルールを知らないし、試合中何が起こってるのかもわからない。とにかくたけちゃんは強くてかっこいい。よくわからないながらも、たけちゃんが相手を投げ飛ばす瞬間は美しいと感じていた。

 できることならずっとそばでたけちゃんを見ていたい。大好きなたけちゃんのそばを離れたくない。

 年下だからどうしても1年は離れなくちゃいけないけど、それ以上はきっと耐えられない。

 やっぱり、死ぬ気で勉強を頑張ろう。

 たけちゃんにとっての県大会は通過点でしかないのか、優勝が決まって表彰されているというのに、表情は普段と変わらない。

 表彰が終わって先生や後輩達に労いの言葉をかけられ、その後着替えをして帰り支度を済ませたたけちゃんが戻ってきた。

「たけちゃん、優勝おめでとう!」

「うん」

「今日もすっごくかっこ良かった!」

「…………うん」

 色黒だから顔色こそ変わらないまでも照れた様子のたけちゃんがかわいい。そんなたけちゃんも大好きで飛び付きたくなるが、人の目があるからここはぐっと我慢だ。