学校までの道のりをたけちゃんと並んで歩いていたら、珍しくたけちゃんの方から話しかけてきた。

「のぞみ、お前中間テストの結果酷かったらしいな?」

「ん?いや?そうでもないよ?」

 すかさず誤魔化した私に、たけちゃんが眉間に皺を寄せる。元々強面なたけちゃんの怒った顔はかっこいいけど迫力があり過ぎて、さすがの私もちょっと怯むからやめて欲しい。

「誤魔化しても無駄だ、そうたから聞いてネタはあがってんだよ。このままじゃ内申ぼろぼろなんだろ?お前、高校行けなくなってもいいのか?」

 そうたとは兄のことである。あいつ‥‥余計なこと言いやがって、あとで絶対酷いめにあわせてやる。

「受験なんてまだまだ先の話じゃん。なんでそんな意地悪なこと言うの?」

「‥‥‥‥俺は今年の全国大会で結果を残せば、多分スカウトされて推薦で高校に行くことができる。でものぞみは部活もやってないし、勉強で頑張るしかないんだぞ?」

「たけちゃん、なんて高校行くの?」

「桃蔭学園なら家から通えるし、そこに行けたらいいと思ってる」

「桃蔭‥‥って、私立の?そこって有名な進学校じゃん。柔道でそんなとこ行けるの?」

「桃蔭は柔道も強いんだ。全国でもそれなりに結果を出してて、スポーツ推薦枠があるからスカウトされなくても多分なんとかなる」

「そんなあ‥‥勉強でそんないいとこ行けるわけないじゃんかあ‥‥」

「桃蔭どころか今のままだと若竹ですら厳しいんじゃないか?勉強はちゃんとしろ。言うこと聞かないなら、先生に頼んでのぞみは柔道部出禁にしてもらう」

「え!?そんなの酷過ぎる!」

 若竹は地元で有名なヤンキー高校だ。そこですら入れない私が、桃蔭なんて受かるのか?でもその前に、出禁は絶対回避しなくては‥‥

「わかった‥‥勉強するから出禁は本当に勘弁して?」

「それはのぞみの頑張り次第だ」

 その日は結局いつも通りに部活を見学し、家に帰ってから高校のことを調べてみた。

 驚いたことに桃蔭と若竹では偏差値が30くらい違うらしい‥‥これ、頑張ってどうにかなるのか?

 まだ先だと思ってた受験だが、本気で頑張らないとたけちゃんと同じ高校に行けなくなるのかもしれない‥‥いや、本気で頑張っても無理な可能性が高いだろう。

「どうしよう‥‥」

 とりあえず、塾で家にいない兄の部屋に忍び込み、国語の教科書の裏表紙に『まなみLOVE』と目立つように書きなぐってカバンに突っ込んでおいた。

 まなみは兄が好きな子の名前だ。学校で気づいて悶絶するがいい。たけちゃんに私のことをちくった天罰だ。