大学を卒業したたけちゃんは、柔道部の顧問経由で、大学のそばにある企業の実業団に入ることが決まった。

 そのおかげで、私達の同居生活が解消されることはなく、平穏無事に続いている。

 と言っても、私は臨床実習が始まると入学当時を彷彿とさせる程の忙しさになり、たけちゃんも遠征や合宿で家を空けることが多くなっていた。

 遠征先から電話をかけてくる時の方が家にいる時より会話できてる気がするのは、多分勘違いじゃないだろう。

『なんでもいいから飯だけは絶対に食べるんだぞ?どんなに時間が足りないと思っても、少しでいいから寝なきゃ駄目だからな?』

 最早お風呂のことは言われなくなってるな‥‥

 自分がいない時にお風呂で倒れたら死ぬと思われているのだろう。ありえそうで怖い。お風呂は入らないでおこう。

 曰く『覚醒』したらしいたけちゃんは、今や飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍していた。

 代表選手にエントリーされ、国際大会にも出場した‥‥らしい。残念なことに私の知らない内にその全てが終わっていて、帰国したたけちゃんにメダルを見せられ、はじめてそれを知ったのだ。余裕がなさ過ぎて辛い。

 またしばらくたけちゃんに会えないのか‥‥

 しょうがないから、代替補給しておこう‥‥

「ほんごうたける‥‥画像‥‥と」

 イケメンで背が高く細身なのにしっかりと筋肉がついているたけちゃんは、気づけば国籍を越えて細マッチョ好きの女性達に大人気となっているのだ。

 だから検索すると、出るわ出るわ‥‥え?そんな画像まで!?ってくらいギリギリキワキワな感じのものから、正統派な戦闘シーンまで、ありとあらゆるたけちゃんが楽しめる仕上がりになっている。

「いやーたけちゃんが有名になってくれて、本当大助かりだわー」

 ひとしきり画像を楽しみ、勉強に戻った。

 明日も実習だから何か食べて寝なきゃな‥‥

 体力がついてるのか体が麻痺してるのか‥‥判別はつきづらいが、たけちゃんのおかげでなんとかやれてるのは間違いない。

 実習が終わったら次は研修‥‥そして国家試験が待っている。

 来年になれば今度は私が研修で家を空けることが増えるだろう。たけちゃんの生活も変わらないだろうから、この家は留守がちになる。

 近いようで遠い‥‥でも繋がってる感じはするから不安はなかった。

「たけちゃんと私の関係って、なんだろう?」

 昔たけちゃんを困らせた質問が、ふと頭に浮かんで呟いた。

 でもあの時のような混乱は感じない。

 私とたけちゃんは、信頼で繋がっている。