「たけちゃん!絶対負けないで!」

 試合中にのぞみが声援を送ってきたのははじめてだった。驚いてのぞみを見ると、逆に驚いたみたいな顔をするから、思わず顔が緩んでしまった。

 ただ、こいつに負けるなとは‥‥のぞみは随分無茶を言ってくれる。

 目の前にいる高橋‥‥こいつは本当、ばけものみたいに強い。でも俺の姫様が勝てと言うのだから、負けられない。

 絶対に負けたくなくて、俺は必死で高橋に食らいついた。それでも力及ばず‥‥結局俺は負けてしまった。

 のぞみの声援に応えられなかったことがとにかく悔しかった。

「いつか高橋を投げ飛ばすとこ、見せてくれるでしょ?」

 のぞみの願いを叶えるため、俺は強くなる。

 そう決意した俺は、より一層努力を続けた。

 高校生になって少し雰囲気が変わったのぞみの様子が、ある時を境に急におかしくなった。

 理由がわからなくて戸惑っていると、ある日突然のぞみがおでこを出して俺の前に現れた。

 消えないと聞いていたおでこの傷がなくなってる?のぞみの傷が治ったことを俺は単純に嬉しいと思ったのに、逆にのぞみはそれからどんどんおかしくなっていった。

 その日、部活が終わりいつもいるはずののぞみがいなくて、俺は必死でのぞみを探した。何が起こってるのかわからなくて混乱し、のぞみが学校で倒れて救急車で運ばれたことを知って動揺した。

 のぞみの様子がおかしかったことに気づいていたのに、俺はまたのぞみを守れず怪我を負わせてしまったのだ。

 どんなに強くなっても、のぞみを守れないなら、そんなのなんの意味もないじゃんか‥‥

 迷いが生じた俺は、のぞみに会えなくなったことも手伝って、最悪な状態になっていた。

 県大会はなんとか優勝したけど内容は酷いもので、いつもならのぞみが励ましてくれるのに今回はそれもなく‥‥なす術もなくどん底まで転がり落ちていく感覚を味わった。

 のぞみがいないと自分がこんなにも弱いという事実に愕然としてしまう。

 でも‥‥俺はまだ何も叶えてない。このままでいいわけがない。俺が自分の力で強くならないと意味がないんだ。

 だがそれは想像以上に困難を極めた道だったらしい。

 筋トレをすれば筋肉がつく。訓練を続ければ技に磨きがかかる。でもメンタルを強くするにはどうすればいい?

 答えが見つからないまま、時間が経てば経つ程、調子は下がる一方だった。