高2の市大会を最後に、私は応援に行ってないことになっていた。

 実際は隠れてこそこそ応援に行ってたし、なんなら高3の県大会ではガッツリ目が合ったので、たけちゃんは私が応援に行ってることに気づいているだろう。

 でもたけちゃんの方から試合に来て欲しいだなんて、そんなこと今まで一度も言われたことがなかった。

「うん!行く!絶対に行く!」

 嬉し過ぎて前のめりで返事をしてしまう。

「正直まだ勝てるかはわからない。でも成長した俺をのぞみに見せたいんだ」

「たけちゃん‥‥」

 もうやだ、泣きそう。

「俺、死ぬ気で頑張るから、応援して欲しい」

「わかった。たけちゃん、頑張ってね!」

「うん、頑張るよ」

 中学生の時にした約束を守るために必死で頑張ろうとしてくれている‥‥そんなたけちゃんが大好き過ぎて、私はどうすればいいんだろう?

「よし!じゃあ、私も頑張らなくちゃね!」

 それから私達はお互い競い合うかのように頑張り続け‥‥遂に、決着の日を迎えたのだった。

 目前にそびえ立つ武道館を前に、私はかつてない程の緊張を感じていた。

「ああ‥‥緊張する‥‥」

 今日は隠れる必要がないから、決勝戦が見やすい場所で観戦しよう。大丈夫。たけちゃんはきっと決勝戦まで勝ち上がる。

 今日のたけちゃんは落ち着いているようだった。その戦い振りは凄まじく、全国大会であることを忘れてしまう程に快勝し続けていく。

 凄い‥‥去年より、ずっと強くなってる。

 たけちゃんの試合しか見たことのない私は何年経っても素人目線が抜けないのだが、それでも明らかに違いがわかる程の変化を感じる。

 本当に、勝っちゃうかもしれない‥‥?

 期待と不安で息苦しさを覚えながら、決勝戦が始まるのをじっと待つ。

『来た!』

 たけちゃんと高橋が入場し、会場が黄色い声援に包まれた。

『たけちゃん!頑張って!』

 私も心の中で声援を送る。

 すると‥‥たけちゃんが私に向かって小さく頷き、うっすらと微笑んだ。

 私の声援がちゃんと届いてることを知り、不安が薄まる。なんだか息がしやすくなった。

 大丈夫、きっと大丈夫だ。

 試合が始まり距離を取って様子を伺う。いつもと同じ流れ。最初に動くのも高橋。だが次の瞬間‥‥

「一本!」

 会場は歓声に包まれているはずだが、私には聞こえなかった‥‥

「のぞみ!!!」

 たけちゃんが私を呼ぶ声だけが耳に響いた。