建物の構造上窓から覗くこともできず、入り口が無理なら覗き見は諦めるしかなさそうだ。

 せっかくここまで来たのに、あの女の子達のせいでチラ見することすら叶わず‥‥辛過ぎる。

 デッサンとか言ってたし、彼女達は芸術系の学部の子達なのだろう。体育系と芸術系は同じエリア内にあるから、彼女達がたけちゃんを見かけてファンになってもおかしくない。だってたけちゃんはイケメン過ぎるもの。

「やっぱりモテモテじゃんか‥‥」

 私が知る限り朝から晩まで柔道漬けだったたけちゃんの生活に変化があるとは考えにくい。

 でも柔道以外の時間‥‥体育・芸術エリア内での様子は私には知りようがないのだ。多分、敵はあの子達だけではない。

 たけちゃんの様子ではモテてる自覚はなさそうだったけど‥‥あの感じ、遠巻きに見守るタイプだとは思えない。彼女達は絶対肉食系だ。

 たけちゃん‥‥もしかして、もう喰われちゃってる!?

 一緒に暮らしてると言っても私は完全に管理されてる側で、たけちゃんの生活は一切把握していなかった。

 きっと私はたけちゃんに彼女がいたとしても気づけない。余裕のない時期なら、たけちゃんが数日家を空けても気づかない自信がある。

 たけちゃんに彼女がいるなんて、考えてみたこともなかった。その事実を探ろうにも、私には医学部にすらまともに知り合いがいないのだから、探りようがない。

 家に戻った私は、いつも通り勉強を始める。

 たけちゃんに拒絶され失恋が確定した時も私は勉強を続けた。

 たけちゃんが私を好きじゃなくても私がたけちゃんを好きな気持ちに間違いはないのだ。投げやりになって勉強をやめてしまえば、私はたけちゃんのそばにいられなくなる。

 いつまでこの状態が許されるのかはわからない。だけど、私は許される限りたけちゃんのそばにいたい。

 落ち込むのは、その時が来てからでいい。

「のぞみ、夕飯できたから一旦休憩入れて?」

 いつの間にか帰宅していたたけちゃんに呼ばれてダイニングに移動すると、いつものようにテーブルにご飯が並べられている。たけちゃんが作るご飯は野菜が多めでヘルシーだ。凝ったものではないが意外と美味しい。

「いただきまーす」

 こうして2人で食卓を囲める‥‥これ以上の幸福を望む必要があるだろうか?

「美味しい!たけちゃん、いつもありがと!」

 練習を覗けなくても、たけちゃんに彼女がいたとしても、今目の前でたけちゃんが嬉しそうに笑ってる。それだけで十分だ。