「本当に!申し訳ありませんでした!」

 その日の夜、私はこれまでのこと全てに対してたけちゃんに土下座して謝った。

「いや、謝らなくていいって。そのために引っ越ししたんだし、引っ越しのせいで勉強が大変になったのもわかってたから。それに、のぞみの無頓着は今に始まったことじゃないだろ?」

「でも‥‥たけちゃんも柔道の大会で大変だったでしょ?それだって、応援に行くどころか気づいたら終わってただなんて‥‥本当、一生の不覚過ぎるよ‥‥」

「一生の不覚って‥‥のぞみが俺を応援してくれてるのはわかってるから、それで十分だよ。高校の時みたいに迷いはないから、俺はもう大丈夫。今はのぞみが頑張ってるんだから、今度は俺が応援する番なんだよ」

「たけちゃん‥‥」

「それより、勉強以外のことに気が回るくらいには余裕が出てきたってこと?」

「あー‥‥うん、前より授業の内容が頭に入りやすくなってる気がする。予習と復習にかかる時間が短くなってきて、少し楽になったかも?」

「そっか、なら良かった。うちの医学部は他よりきついって聞いてたから心配してたんだ。家のことは今まで通り俺がする。自分のことをするついでだから気にする必要はないよ。とにかくのぞみは勉強だけしてればいいから」

 勉強だけって‥‥余裕がないのは事実だが、それだけってのも寂しい。

 本当は高校の時みたいに練習を覗きに行きたいし、試合の応援にも行きたい。柔道をしてる時のたけちゃんはもの凄くかっこいいのだ。

「無理して倒れたりしたら大変だろ?遠慮なんてしなくていいんだよ」

 遠慮とは程遠いことを考えていたのに、何か勘違いしたらしいたけちゃんが、優しい言葉と共に私の頭に手を置いた。なんか申し訳ない。

 だが、柔道をしているたけちゃんを卒業以来拝んでいないのは由々しき問題だ。気づいたからには一刻も早く補給が必要だろう。

 うん、やっぱり明日にでも道場を覗きに行ってみよう!

 私が頷いたのを了承と捉えたらしいたけちゃんが、嬉しそうに目を細めた。笑顔のたけちゃんはレア中のレアだ。いい。凄くいい。

 改めてたけちゃんのことが好きだと思う。

 たけちゃんが優し過ぎるから、私は何度でも勘違いしてしまいそうになる。

 嫌われてるとは思ってない。でも、たけちゃんにとっての私は、多分妹‥‥家族だと思っているから、こうして一緒に生活できているのだ。

 それはちょっと、悲しいなと思う‥‥