「‥‥‥‥え?」

 よくよく見るまでもなく、そのイケメンはたけちゃんの顔をしていた。

「そんな‥‥‥‥」

「え?のぞみ?どうした?」

「な、なんで‥‥なんで坊主じゃなくなっちゃったのー!?」

「ええっ!?」

 久しぶりに会ったのに第一声で坊主じゃないことを責められたたけちゃんは動揺してワタワタしていたが、私はそれどころではなかった。

 今まで坊主だったから気づかれないで済んでたのに、こんなのイケメンが丸出しじゃんか‥‥

 卒業ギリギリまで部活を続けていたたけちゃんは、卒業してから坊主にする理由もないので髪を伸ばし始めた。そして特にこだわりはないので、大学のそばにある床屋に通い始めたらしい。そこでお任せでカットしてもらっているそうなのだが‥‥

「カットしてるの、女の人でしょ?」

「‥‥うん‥‥なんでわかるんだ?」

 黒髪だし、パーマもかかってないし、少し長めだけど一応短髪‥‥でも明らかにスポーツマンらしくないお洒落カットなのだ。床屋で切ったとは思えない仕上がりだと思う。

 どんな人だか知らないけど、イケメンのたけちゃんをスポーツ刈りにしたくなくて、自分好みの髪型にしてはウハウハしてるのが目に浮かぶようだ。

「たけちゃん‥‥大学でモテてるでしょ?」

「いや?そんなことないと思うけど?」

 誤魔化してる感じはしないが、これでモテてないとかあり得ないでしょ?

 これまでライバルが女子柔道部の先輩達しかいなかったのが奇跡だったのだ。こればっかりは致し方ない。

 たけちゃんは子供の頃から柔道一筋で、ずっと一緒にいたけど浮いた話を聞いたことは一度もなかった。

 でもそれは坊主頭でモテなかったせいだったのかもしれない。いくらたけちゃんでも、多くの女性に言い寄られれば、その中の誰かに興味を持ってもおかしくない。

 たけちゃんは健康過ぎる程健康な成人男性なのだ。色恋を抜きにしても、そういうことに興味が全くないわけではないだろう。それは謂わば、生理現象なのだ。

 せっかく開いていた距離が少しは縮んだかと思ったのに、一難去ってまた一難てやつだな‥‥

 アパートまでの道のりをたけちゃんと並んで歩きながら、私は小さく息を吐いた。

 色々あって忘れかけていたけど、たけちゃんはただの幼馴染みであって、私のことが好きなわけではないのだ。

 学部も違うし、練習で忙しいたけちゃんと会う機会は多分ほとんどない。第一授業が始まれば、私も勉強で目が回る忙しさになるだろう。

 まあいいや。医者になるために、私は私のできることを頑張らなくては。