市大会の予選が始まりしばらく経った頃、私は休み時間に呼び出され、人気の少ない廊下で久しぶりに先輩達に囲まれていた。

「あんた、本郷君に何したの!?」

「はい?」

「とぼけないでよ!前はあんなに本郷君にまとわりついてた癖に急に姿を見せなくなって、おかしいでしょ!?よくよく考えたら本郷君の調子が悪くなったの、あんたを見かけなくなった頃じゃん!あんたが何かしたんでしょ!?」

「いや、邪魔だから消えろって言ったの、先輩達ですよね?」

「そ、そうだけど!そうじゃなくて!最後の悪あがきであんたが何かしたんじゃないのかって聞いてんの!」

 そんなこと言われても、私だってよくわからないままたけちゃんに切り離されたのだ。説明できるような原因に心当たりは全くない。

「うーん‥‥なんか、自分で越えなきゃいけない壁があるとかどうとかは言ってましたけど‥‥それがまだ越えられないんですかねえ‥‥?」

「壁って何よ!」

「そんなの私だって知りたいですよ!」

「やっぱり!あんたまだ本郷君のこと諦めてないじゃんか!」

「諦めるわけないじゃないですか!」

「‥‥じゃあ、なんで姿を見せなくなったの?」

「それは‥‥私は私なりに努力して、たけちゃんの邪魔にならないように、最小限の供給で我慢してるっていうか‥‥」

「とにかく!本郷君、このままだと今年は全国難しいかもしれないんだよ。その壁がなんなのか知らないけど、早く越えないと県大会で勝てるかどうか‥‥」

「え‥‥?」

 練習は毎日覗きに行ってるけど、柔道に詳しくない私はたけちゃんがそんなにやばいことになってるなんて全く気づいていなかった。

「‥‥どうしたらいいんですか?」

「そんなの、わかるわけないじゃんか!」

「そんな‥‥‥‥」

 予鈴が鳴って先輩達は先に行ってしまった。

 会場が大きくなる市大会の本選から応援に行く予定だったから、実際の試合を見れるのはまだ先だ。

 第一、たけちゃんから明確な拒絶をされているのだから、私にできることなんて何もないだろう。

「たけちゃん‥‥大丈夫なのかな」

 たけちゃんは市大会で無事優勝した。でも女子柔道部の先輩達が言っていた通り、たけちゃんの不調が続いているのは私の目からも明らかだった。

 見る限り体の状態は悪くない。怪我もないし筋トレもうまくいってると思われる。練習だってさぼってない。

 なのに去年より調子が悪い理由なんて、私にわかるはずないじゃんか‥‥