たけちゃんが弱い?そんなこと、あるわけない。益々意味がわからなくなってきた。

「今のままじゃ、全国大会でも勝てない‥‥‥‥」

「え?何言ってるの!?そんなの、やってみないとわかんないじゃん!どうしてそんなこと言うの!?たけちゃん、なんかおかしいよ!」

 たけちゃんが意味不明過ぎて思わず声が大きくなった。

「わかるんだよ!」

 私の声を制するように、たけちゃんが怒鳴るように声を出した。

 たけちゃんの怒鳴り声なんて聞いたことのなかった私は、驚きのあまり体を強ばらせる。

 たけちゃんは一度大きく息を吐き、落ち着いた声で話を続けた。

「‥‥このままじゃ駄目なんだ。自分自身でこの壁を越えないと、俺は弱いままで一生強くはなれない」

 どういうこと?たけちゃんは、何を言おうとしてるの?

「しばらく‥‥連絡を取り合うのはやめよう」

『わかった‥‥』

 それだけ言って、私は自分の部屋に戻った。

 部屋に入った瞬間、涙がボロボロとこぼれ落ち、私は大声を出して泣いた。

 最初に距離をとり始めたのは自分だというのに、たけちゃんからはっきりと拒絶の言葉を放たれ、心にざっくりと傷ができたと感じた。

 思う存分泣いて気が済んでから、勉強をするため机に向かった。

 会わなくても、メッセージのやり取りをしなくても、たけちゃんを好きだと思うのは私の自由だ。きっとこれまでとたいして変わらない。

 こうして私はストーカーへとジョブチェンジし、たけちゃんを遠巻きに見守り始めた。

 たけちゃんが言っていた通り全国大会は二回戦負けという散々な結果で終わった。その後も調子は戻っていないようである。

 たけちゃんがぶち当たっているという壁がどんなものなのかは知らないが、そう易々と越えられるものではないのだろう。

 私のステルス能力の向上以外に大きな変化がないまま時は流れ、私は2年生になった。

 たけちゃんの進路が確定しない限り、あらゆる可能性を考慮しなくてはならない。国公立にも柔道の強豪といわれている大学があるので文系か理系に絞ることもできない。でもたけちゃんに費やしていた時間の大半を勉強に振ったお陰で、成績はかなりいいからよほどのことがない限り問題はないはずだ。

 勉強も真面目に頑張っているたけちゃんはスポーツ推薦のある大学ならどこにでも行けるだろう。いくら不調が続いていたとしても、たけちゃんが県大会で負けるとは思えない。