『優勝したよ』

 帰宅後、たけちゃんから報告のメッセージが来ていた。

 あの試合内容だともしかしたら少しへこんでいるかもしれない。だが私はそれを知らないことになっている。

 以前の私ならお祝いを言いがてらさりげなく励ましに行ったと思うけど、どうしよう‥‥

 おでこの怪我は抜糸してからテーピングをしていてまだ目を引く状態だ。たけちゃんにこの姿を見せたくなくて、退院してから一度も顔を合わせていない。

『おめでとう!さすがたけちゃん!見に行けなくて残念、全国でも頑張って!』

 たけちゃんに会いに行っても以前のようにお喋りできる気がしなくて、結局メッセージを送ることにしてしまった。

 こうしてメッセージのやり取りは続いているけど、最後に顔を合わせてからもうひと月近くになる。こんなに長い間会わなかったのは、はじめてのことだった。

 会わない時間が長くなればなる程会いづらくなるけど、多分会えなくてつらいのは私だけでたけちゃんはほっとしてるのかもしれない。

 部屋の窓からたけちゃんの家を眺めた。また筋トレをしてるのだろうか?それとも部屋で落ち込んでるのかも?

 励ましてあげたい。だけど今の私にたけちゃんを励ますだけの力はない。

 その後行われた関東大会で、たけちゃんは入賞を逃した。試合を見に行かなかったので詳細はわからないけど、県大会であれだけ手こずっていたことを考えれば無理もない。

 そういえば中学でも2年の時は結果がいまいちだった。この年代の学年の差は大きいのかもしれない。

 さすがに今回は直接声をかけに行った方がいいだろうと思い、念入りに前髪で傷を隠してたけちゃんの家を訪ねた。

「たけちゃん、久しぶり」

「のぞみ‥‥‥‥」

 たけちゃんはベッドで横になっていた。お風呂に入った後なのか、短パンにランニングという露出度の高い姿で目のやり場に困る。

「ああ、ごめん」

 私が恥ずかしそうにしていることに気づいたたけちゃんが、上着を羽織った。

「元気そうで良かった、安心した」

「うん、心配かけてごめんね。もう大丈夫‥‥たけちゃんは‥‥あんま大丈夫じゃない、かな?」

「‥‥‥‥俺、情けないよな。本当、ごめん」

 前にもこんなことがあった。でも前回以上にたけちゃんが謝る理由がわからない。謝る必要なんてないし、謝って欲しくない。

「たけちゃんは情けなくなんてないよ?どうして謝るの?」

「俺は‥‥強くなりたいんだ。そのために柔道を始めたのに‥‥俺は‥‥どうしようもなく弱い」