学年が違う私とたけちゃんは、登下校以外で顔を合わすことはほとんどなかった。

 なのに下校も控えることにしたのは、帰宅時間が遅い分だけ私の睡眠時間が減るから。

 でも、少しだけなら見学してもきっと大丈夫だろう。いや、たけちゃんに見つかったら何か言われそうな気がする‥‥そう考えた私は、こそこそと柱の影から練習中のたけちゃんを覗き見するようになった。

 昭和のスポ根漫画に出てくるお姉ちゃんみたいなことになっているが、たけちゃんを見ないと1日が始まらないし、見てから帰らないと帰宅後の勉強に差し障るのだからしょうがない。

 たけちゃんと顔を合わせる機会はなくなってしまったが、最近気まずい感じだったし、むしろこんな感じも悪くない気がしてきた。

 朝夕とたけちゃんを覗き見して、たまに短いメッセージのやり取りをする。

 夏休みに入ってからも課外授業にフルで参加し、授業がない日も図書室で自習するため学校に通った。もちろん、休憩代わりに覗き見をするためだ。

 たけちゃんは市大会を危なげなく通過し、県大会への出場が決まっていた。

 睡眠時間が確保されたことで体調はほぼ回復していたのだが『今回は大事をとって家で応援するから頑張って』とメッセージを送った。

 直接顔を合わせる機会はなくなったけど、気まずくなった原因がなくなったわけではない。

 もしたけちゃんが私を好きじゃなかったとしたら、私が再びおでこに傷を作ったことでこれまで以上に拒絶しづらい状況になったと考えられるのだ。

 だから私はたけちゃんと少し距離を取ることにした。私が少し我慢することでたけちゃんが楽になれるなら、きっとその方がいい。

 それでも私はたけちゃんが好きだから覗き見をするし、県大会だってこっそり応援に行く。

 うっかり顔見知りに目撃されたら最悪だ。細心の注意を払って会場入りし、人が多い場所に紛れ込んで、目立たないよう大人しくしてたけちゃんの出番を待った。

 試合が始まると、何故か違和感を覚えた。もしかして、今日のたけちゃんは少し調子が悪いのだろうか?説明はできないけど、何かいつもと違う気がする。

 試合が進むにつれ、その違和感は大きくなっていった。実際、苦戦とまでは言わずとも、技をかけるのにてこずっているように見えなくもない。

 たけちゃんは県内に敵はいないと思ってたのに、なんでだろう?

 それでも確実に勝ちを積み重ね、たけちゃんは無事全国への切符を手に入れた。