『私のこと好き?』と聞くのは、たけちゃんに直接『好き』と言うのと同じくらい恥ずかしくて、少し遠回しな言い方になってしまった。

 私達は婚約していない。想いを伝えあってすらいないのだから、恋人でもないのだろう。それなら私は、たけちゃんになんて答えて欲しいんだ?私ですら答えがわからないような質問をされたたけちゃんが、目を白黒させている。

「ごめん、なんでもない!あ、そうだ‥‥」

 私が変な質問をしたせいでたけちゃんを困らせているようなので慌ててバッグから数学のテキストを取り出し、昨日解けなかった問題を教えてもらうことで話をそらした。

 おかげで数学の問題は解けたが、突然浮上した私の疑問はそのまま放置されることになってしまった。

 たけちゃんが私をどう思ってるのか‥‥むしろなんで私は今までそのことについて考えてみたことがなかったんだろう?

 私がたけちゃんについて回るようになったのは4歳の時からで、記憶にある限りたけちゃんがそれを嫌がったことはなかった。

 多分『嫌がられない=好かれている』と私は感じていたんだと思う。

 私がたけちゃんを好きになったのは、あの時私を助けてくれたから。

 あの時のことをたけちゃん目線で振り返ってみると‥‥勝手についてきた友達の妹が泣き出して友達が逃亡、なんとかしようと頑張ってもどうにもならず怪我をして、挙げ句親から怒られたのだ。

 甘酸っぱさの欠片もない。どちらかといえば苦い。少なくともこの流れでたけちゃんが私を好きになる要素は微塵もないだろう。

 じゃあ何故たけちゃんは私を拒絶しなかったのか?

 あの時私も怪我をした。右腕を骨折して4歳だった私はしばらくの間ひとりでは何もできなくなり、おでこには今も傷が残っている。

 たけちゃんは強面だけど優しいのだ。そんな優しいたけちゃんが私の怪我に責任を感じ、私を拒絶できなかったのだとしたら‥‥

 考えれば考える程、その憶測が正しく思えて仕方がなかった。

 どうしよう‥‥どうして私は10年以上もこの可能性に気づかなかったんだ!?

 物事の分別がつく前にたけちゃんを好きになり、周りの人達はそれを温かく見守った。私がたけちゃんのそばにいることを否定する人が存在しなかったのだ。

 たけちゃんは迷惑じゃないと言ってくれたけど、もしそれが責任感からくるものだとしたら‥‥私はこのままたけちゃんのそばにいて、本当にいいのだろうか?

 女子柔道部の先輩達が言っていた通り、私は思い込みの激しい勘違い女なのかもしれない?