とはいえ、油断して横からたけちゃんを奪われたりしたら、後悔してもしたりない。今後は勉強だけじゃなく、見ための努力も必要だ。

 私立だから校則はあまり厳しくないので、許される範囲で女子力アップを目指した。おかげで起床時間は早まるが、かわいいを作るためにはやむを得まい。

「たけちゃん、おはよ!」

「ああ、おはよう」

 当然朝は一緒に登校している。まだ薄暗い時間だが、おかげで電車はガラガラだ。無口なたけちゃんとの会話は少ないものの、隣に座って一緒に過ごせる時間を満喫する。

「のぞみ、少し痩せたか?顔色も悪いみたいだし‥‥おまえ、ちゃんと飯食べてる?」

 たけちゃんが中学を卒業して別の学校に通っていた間、痩せ過ぎてた私の体を心配したお母さんに朝からしこたまご飯を食べさせられていた。遅くまで勉強していたから夜食の準備までされ、1年でかなり体重が増えた。

 春から再びたけちゃんの朝練にあわせた生活が始まり、前程ではなくても確かに体重は落ちている。顔色は化粧のせいもあるけど、寝不足が一番の原因だろう。

「ちゃんと食べてるよ。今朝もパンとか食べてきたし」

 なんとなくうしろめたくて、パンしか食べてないことは誤魔化した。

「大丈夫ならいいんだ。でも勉強も頑張ってるんだろ?あんま無理すんなよ?朝だって俺に付き合ってこんなに早く出る必要ないんだし‥‥」

 たけちゃんが急にそんなことを言い出したりするから、先日女子柔道部の先輩達に言われた言葉が脳裏を過る。

『目障り‥‥邪魔‥‥迷惑‥‥』

「もしかして‥‥迷惑だったりする?」

 そんなはずないと思いつつ、たけちゃんの返事を少し怖いと思う自分に気づいた。

「‥‥?いや、そんなことないけど」

 否定の言葉にほっと息を吐いた。表情からもその言葉には嘘がないとわかる。それでも、私の心のもっと奥深くにわだかまった何かが残っていると感じる。

 それは一体なんなのか‥‥

『本郷君に確認したら婚約者なんていないって言ってたけど?』

 確かに私とたけちゃんは結婚の約束はしていない。そういえば、私はたけちゃんに直接『好き』と言ったことはなかった気がする。

 私がたけちゃんを好きだと知らない人なんて多分いない。たけちゃんだって絶対に知っている。あまりにも当たり前のこと過ぎて、わざわざ口にする必要がなかったのだ。

 改めて『好き』だと言葉にするのは、さすがの私もちょっと恥ずかしいし。

 ‥‥でも、たけちゃんは?

「ねえ、たけちゃん。たけちゃんと私の関係って、なんだろうね?」