━━はじめまして小春様━
「え、なんで私の名前を…?」
私はとてもびっくりした。
言ってもない名前をこの人はなぜ知っているの?
「少し質問してもいいですか?」
私はここがなんなのか、この人が何者なのか、知りたいことが沢山あったのでどうしても全部聞きたかった。
「はい、もちろん」
そう、優しい声で彼は言った。
「貴方は何者なの?お名前は?」
私がそうたずねると、
「申し遅れました、私は神の使いをしております神野と申します。」
「神の使い?」
私はびっくりしてそうたずねた。
「左様でございます、ここは空の上の天国なのです。」
天国…?ってことは私は死んだんだ。そりゃあそうか、あんなことしたからね
「小春様はマンションの5階から飛び降りるという飛び降り自殺をしたことにより亡くなられたのです。」
「そっか、死ねたのか…」
「はい、小春様はなぜ自殺をしようと思ったのですか ?」
そう聞かれて私は少し戸惑いながら答えた。
「それは…」
ー数年前ー
「お前なんていらねえよ、この約立たずが」
私は両親にそう言われ続け育ってきた。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
私はただただ謝ることしか出来なかった。私には2つしたの妹、がいた。妹の名前は夏葉だ。妹が産まれる前までは両親はとても優しかった。一緒にたくさん遊んでくれたし一緒に寝たりハグしたりもした。けれど妹の夏葉が産まれお父さんの浮気が発覚し環境は変わってしまった。両親は当然離婚し親権はお母さんが取ったので私たちはお母さんと一緒に暮らしてきた。お母さんはストレスをぶつけるかのように私に暴力をふるった。私は夏葉に飛び火が行かないようにする事で精一杯だった。学校でも家でもいい子のフリをしていた。嫌われないように、相手の機嫌を損なわないように顔色を伺って。それなのにいつの間にか家では暴力、学校ではいじめを受けるようになっていた。私には頼る宛もなく毎日が苦しかった。だんだんいじめはエスカレートしていきやがて私は不登校になった。それでも家では暴力ばかり、休めるところなんてどこにもなかった。それが耐えられなくなった私はマンションから飛び降り、今に至る。
「なるほど、大変お辛かったのですね。」
神野さんはそう言ってくれた。
だが、私は夏葉を置いていってしまった、家で暴力を受けていないだろうか、いじめられていないだろうか。
「妹さんはきっと守ってもらえて嬉しかったでしょうね。」
「神野さん」
「はい、なんでしょうか?」
神野さんはニコッと微笑みながら言った。
「夏葉は、妹は今いじめられていないですか?暴力を受けてはいないですか?幸せに暮らしていますか?」
「幸せに暮らしていますよ。お姉さんの小春様が亡くなられてとても悲しんでいますが小春様の分まで生きると楽しんでいますよ」
私は思わず泣いてしまった。人に泣いているのは見られたくはなかったけれど抑えられなかった。
気を使ってくれたのか、神野さんは泣いていることについてはなにも触れなかった。
「大丈夫です、来世はきっといい人生を歩めますよ。」
神野さんはそう言った。
「はい」
私は声が震えていた。
「大丈夫、大丈夫ですよ。」
神野さんは優しかった。落ち着くまで隣にいてくれて背中をさすってくれた。
「落ち着きましたか?」
「はい、すみません、ありがとうございました。」
私は神野さんにお礼を言った。
「そろそろお時間です。」
え?神野さんは何を言っているの?
「小春様、来世はきっといい人生を歩めますように、それではさようならまた来世で会いましょう」
そう言って神野さんは消え、私は生まれ変わっていた、これからいい人生を歩めるといいな。
私は眠りにつき、記憶を失っていた。