「……ふう」

 色々なことが終わった私は、中庭でゆっくりとしていた。
 しかし、何か違和感がある。私はこんな所で、何をしているのだろうか。視界がぼんやりとしているし、何かが変だ。

「ごめんなさい。少しいいかしら?」
「え? あ、はい。構いませんよ」

 違和感を覚えながら紅茶を飲んでいた私の目の前に、突如女性が現れた。
 その女性は、私の対面に座る。彼女もお茶をしに来たということだろうか。いや、ここはヴェレスタ侯爵家の屋敷の庭だ。普通の人が入れる場所ではない。

「今日はありがとう。訪ねて来てくれて嬉しかったわ」
「訪ねる? 私が、ですか?」
「ええ、アドールと一緒に来てくれたでしょう。あなたの旦那様とお兄様、それから私のお兄様、エメラナ姫だって……」
「それって……」

 全てが終わったことを、私達はある人の元に報告しに行った。
 私は、その人と実際に会ったことがない。何度もそこには行ったが、実際に顔を見るのはこれが初めてなのだ。
 そういえば、その顔には見覚えがある。どうして気付かなかったのだろうか。今となっては、それが不思議なくらいである。

「……どうしてかしらね。話したいことはいっぱいあったはずなのに、上手く言葉が出てこない。でもなんていうか、わかってもらえている気がするの」
「……ずっと見ていて下さっていたのですね?」
「それはもちろん。でも、あの人は結局来てくれなかったわね……こっちに来ているはずなのに」

 女性は、儚げに笑みを浮かべていた。
 そんな彼女になんと声をかけていいのか、私にもわからない。
 ただ私の方も、わかってもらえているような気がした。こうして顔を合わせるのは初めてであるはずなのに、とても近くに彼女を感じる。

「私で良かったのでしょうか?」
「私はそう思っている……いいえ、これは正しくないわね。あなたじゃなければ、駄目だったのよ」
「そう言っていただけるのは、嬉しいですね」
「なんだか妹ができたみたい。あなたとももっと、話がしたい。でも、それはできないのよね」

 私の視界は、ぼやけていた。
 この時間は、もう終わりなのだ。意識が覚醒していくのを感じながら、私は少し悲しくなっていた。当然私も、もっと話がしたかったからだ。

「ああ言っておくけれど、しばらくこっちに来ちゃ駄目よ?」
「ええ、わかっています」
「あの子によろしくね」

 最後の言葉を耳にした後、私はゆっくりと目を覚ました。どうやら、夢を見ていたらしい。
 つまり今のは、私の深層心理が見せた幻想ということだろうか。色々と都合が良かったような気もするし、そうなのかもしれない。
 しかしどうせ都合よく考えるのなら、彼女が来てくれたと思うことにしよう。そんなことを考えながら、私は笑顔を浮かべるのだった。