「……なるほど、あなたは脅している訳ですか」
「脅しているというのは、人聞きが悪いな、アドール。僕はただ事実を述べているだけだ。僕はヴェレスタ侯爵家のことを思って言っている。それを君にも理解して欲しい」

 狡猾なることに、アドラス様は全てを計算した上で、ここに帰って来たようだった。
 ヴェレスタ侯爵家に対しても被害が及ぶ。その場合私達は、対処せざるを得ない。
 借金取りなんて来られると、困ることしかないだろう。それで悪評が広まったら、ヴェレスタ侯爵家にとって大きな打撃となる。

 彼を亡き者にした場合、どうなるかは予想できない訳ではない。
 質の悪い借金取りならば、私達の元に来るだろう。口振りからして、アドラス様は自分の正体を明かしている。
 この状況で、彼を手にかけるのは得策ではないかもしれない。恐らくアドラス様は、私達がそう考えるなどと思っているのだろう。

「……アドラス様は、そんなものが脅しになると思っているんですか?」
「……何?」
「義母上?」

 アドラス様の主張は、別に間違っている訳でもない。彼がもたらした問題は厄介だ。それは間違いない。
 ただ、それで私達が従うなんて大間違いだ。ここでアドラス様に従ったりしたら、それこそヴェレスタ侯爵家の名折れである。

「……フェレティナ、君は一体何を言っているんだ?」
「アドラス様は、色々と勘違いしているようですね? そのようなことで、このヴェレスタ侯爵家を従えられると思っているんですか?」
「従えようなんて思ってはいないさ。ただ単純に、ヴェレスタ侯爵家のためを思っているだけだ。フェレティナ、僕は君のことも思っている。君はアドールのことを息子として愛しているのだろう。そんな彼のことを思えば、僕への支援くらい簡単なものであるはずだ」

 アドラス様は、私の心情まで持ち出してきた。
 そういった所を突いてくる彼には、人の心というものが案外よくわかっているのかもしれない。
 彼は狡猾だ。他人の心を利用して状況を支配している。私は結婚した時から、彼にいいように利用されていたのかもしれない。

「支援? ふざけないでください。妹と駆け落ちしたあなたが他国で事情に失敗したからといって、私が支援などする訳がないではありませんか」
「……それがヴェレスタ侯爵家の、引いてはアドールのためであっても、か?」
「あなたに従うつもりなどありません……アドール、あなたもそうでしょう?」
「……ええ!」

 私の言葉に、アドールは力強く頷いてくれた。
 アドラス様の主張を受け入れない。その決意を、彼も改めて固めてくれたようだ。