「許さない? アドール、何を言っているんだ?」

 アドールの言葉を受けたアドラス様は、ぽかんとしていた。
 息子から明確に拒絶されている。その事実に彼は、驚いているようだ。
 しかし、それが私からすればわからない。拒絶される理由なんて、いくらでもあるというのに。

「……わからないのですか?」
「……置いていってしまったことは、すまないと思っている」
「僕のことなど、この際どうでもいいことです。問題は、義母上のことだ」

 アドールは、自分のことを一瞬で切り捨てた。
 それがどうでもいいことであるはずはない。置いていかれてしまったことに、彼は傷ついていた。
 だけどアドールは、他のことに激しい怒りを覚えている。それが何かは、怒った時から察しがついていた。私はアドールの母親だ。それくらいのことはわかる。

「フェレティナのこと? それがどうしたというんだ?」
「あなたは、義母上を縛り付けた。義母上が僕を見捨てられないとわかっておいて、結婚した。それがどれ程非道なことか……」
「非道……?」

 アドールの言い分には、私も色々と思う所がある。
 私は、彼の母親になったことについて後悔などはしていない。むしろ幸せなことだと思っているくらいだ。それを口にしたい気持ちもあった。
 しかし私は、黙っておくことにした。ここは、アドールの意思を尊重するべきだろう。彼も私がここにいることは嬉しいと思ってくれているとわかっていることだし。

「アドール、君はフェレティナのことを慕っているのだろう。母と呼んでいるくらいだ。それは間違いないはずだ」
「……それが、なんだというんです?」
「それなら良かったじゃないか。僕の目は間違っていなかったということになる」
「なっ……!」

 アドラス様の言葉に、アドールは固まっていた。
 彼の表情からは、困惑が読み取れる。

 それはそうだろう。アドラス様の言葉は、理解することができない。それくらい歪なものだ。
 彼は一体何を言っているのだろうか。その神経が、私にはわからない。きっとこの場にいるアドラス様以外の人は、誰も理解していないだろう。

「あ、あなたは一体何を言っているんですか?」
「フェレティナを妻に迎えたことは、間違いではなかったと言っているんだ。そうだろう? どうしてそれがわからないんだ」
「……あなたには、人の心すらないのか」

 アドラス様に対して、アドールはゆっくりと吐き捨てた。
 ただ、考えてみればそれは当然のことなのかもしれない。
 息子を捨て、恋人を手にかける。そんなアドラス様に、人間らしい感情を求める方が無理な話だったということだろう。