「ボガードは、アルトリア王国にて商人としてある程度の成功している……なるほど、確かにこの商会の名前は、私も聞いたことがあるわね。新進気鋭の商会だとか」
「ええ、まさか父上がそのトップなんて、思ってもいませんでしたが……」

 ボガートという人物については、すぐに調べがついた。割と有名人であったからだ。
 どうやらアドラス様は、海を渡った外国にて商人として成功していたらしい。彼には、商才があったということだろうか。

「ヴァレーン商会……少し待ってください」
「リヴェルト様? どうかしたんですか?」
「いえ、最近その名前を聞いた気がするんです。確か、こちらの新聞に」

 ボガートという人物に関する報告書を読んでいたリヴェルト様は、新聞を机の上に広げた。
 私とアドールは、その新聞に目を通していく。するとすぐに、ヴァレーン商会の名前を見つけた。そこには、事業に失敗したと書いてある。

「これは昨日の朝刊ですか?」
「ええ、そうですね……調査が終わったのは、その前になる訳ですから、これについては報告書に記されていなかったのでしょうね」
「なるほど、しかしこれはなんというか、とても手痛い失敗なのではありませんか? 私はあまりその辺りのことに詳しいという訳ではありませんが……」

 新聞の記事には、ヴァレーン商会の失敗が大々的に記されている。
 そういったものは誇張されるものだということは、私も理解しているつもりだ。
 ただ、ここに書いてある失敗はそれでもまずいものであるような気がする。商会が傾いてもおかしくない程の損害が出ているように思えてしまう。

「……ええ、これは恐らく立ち直れない程の大打撃でしょうね。もちろん、この新聞に書いてあることが全て信じられるという訳ではありませんから、わかりませんが」
「つまり、アドラス様は今追い詰められているということ……」
「……それはいい気味ですね」

 私の言葉に、アドールは短く言葉を発した。
 その声色は、とても鋭い。そこには確かな怒りがあった。

「二人の人間を実質的に殺めておいて、父上が成功していたなんてあんまりですからね。正直、少しすっとしています」
「アドール……」
「もちろん、良いことではないことはわかっています。しかしそれでも……」

 アドールが言っていることは、私も理解できない訳ではなかった。
 アドラス様がやったことは、許されないことだからだ。

 ヴェレスタ侯爵の利益のために、その罪は葬り去った。そんな私達がそのようなことを思うのは馬鹿げているかもしれない。
 ただそれでも、こう思ってしまう。アドラス様に天罰が下ったと。