「……アドール、一いい?」
「エメラナ姫、どうかされましたか?」
「アドールの考えは理解できるけれど、アドラス様は見つけ出しておく方が良いと思うの」

 ストーレン伯爵やお兄様との話の間黙っていたエメラナ姫は、ゆっくりと手を上げて発言した。
 この三年間でアドールは随分と成長した訳だが、エメラナ姫だってそれは同じだ。今回会うのもそれなりに久し振りではあるが、また一段と王女様らしくなっている。
 そんな気品溢れるエメラナ姫は、アドールの目をしっかりと見ている。彼女には彼女なりの考えがあるということだろう。

「何か考えがあるのですか?」
「そもそもの話ではあるけれど、今回の事故はヴェレスタ侯爵家の領地にある港から出た船で起こったことである訳だし、アドールにはその追悼を行う義務があるはずだよね?」
「それはそうですね。実際に、毎年事故があった日にはそのような催しを行ってきました」
「その催しを利用するべきだと思う。生存者に来てもらえるように呼び掛けるとか」
「なるほど……」

 エメラナ姫は、王女として色々な行事に参加している。そういった点から、そのような考えを導き出したのかもしれない。
 実際の所、その手は有効だといえる。全員来るとも限らないが、結構来てくれる人も多いのではないだろうか。

「ですが、今回亡くなったのは貴族二人ということになります。その二人を追悼しようと思う人は、はっきりと言って少ないのではありませんか? やはり平民の方とは、距離がありますし」
「その辺りの事情なんて、伏せちゃえばいいよ。まだ情報は表に出ていないんでしょう? それなら、隠せるはず」
「そうですね……」
「そこで来てくれた人達は、アドラス様である可能性がなくなる。そうすれば、捜査する対象を少しくらいは絞れると思う」

 エメラナ姫の作戦は、アドールが危惧した手間を場合によっては大幅に減らせるものだ。
 追悼するための式は、どの道行われるため、その作戦を行うための手間もない。とりあえずやってみればいいものだろう。

「……対象を絞るためには、生存者に話を聞くのも有効ではあるだろう」
「伯父様? それはどういうことですか?」
「アドラスが誰かと成り代わっているというなら、その者の名前を知る機会があったはずだ。それに関して、誰かが目撃しているかもしれない。島に流れ着いた者の中にそういったものがいたなら、既に死者が誰であるかは特定されているはずだ。つまり、そちらにはいなかったということだろうが……」

 エメラナ姫に続いて、ストーレン伯爵も声を出した。
 アドラス様を見つけるのは、とても難しいことだと思っていた。
 ただもしかしたら、そういう訳でもないのかもしれない。二人の意見を聞いて、私はそのように思うのだった。