アドラス様が生きているという事実は、ヴェレスタ侯爵家を揺るがす事実であった。
 それ故に、私とアドールは関わりのある人達を集めることにした。その件について、話し合わなければならないと思ったからだ。
 幸いなことに、予定が合う日が直近にあった。来てもらいたいと思っている人達のほとんどに来てもらえたのである。

「アドラスが生きていたか。それは俺にとって、悪いニュースでもあるが良いニュースともいえる」

 説明を終えて最初に言葉を発したのは、ストーレン伯爵だった。
 彼は、鋭い目をしている。それが誰に向けられているものなのかは明白だ。

 アドラス様のことを忌み嫌っているストーレン伯爵にとって、その生死というものは複雑なものなのだろう。
 忌々しいと思いながらも、自分の手で叩き潰せることを喜んでいるのかもしれない。

「ストーレン伯爵は、血気盛んですね?」
「む……」
「まあ、お気持ちはわかりますけれど……」

 その言葉に応えたのは、エメラナ姫だった。
 彼女の方も、中々に複雑な顔をしている。ただそれは、ストーレン伯爵のものとは少し趣が違うだろう。

 エメラナ姫は、優しい人だ。生存していたことを、素直に喜びたい気持ちがあるのだろう。
 とはいえ、アドラス様はアドールを見捨てた人だ。しかも暫定、二人の人間の命を奪っている。
 そんなアドラス様の生存を喜んでいいのか、計りかねているのだろう。

「……ハルベルク様は、どのように思われているのですか?」
「……エメラナ姫、私としてはアドラスの生存は厄介な事柄です。彼が生きているということは、ヴェレスタ侯爵家にとって不利益になる。殺人者でもある訳ですからね。それは、引いてはフォルファン伯爵家の不利益になります」
「なるほど、合理的な考え方ですね」

 エメラナ姫の質問に、お兄様は淡々と答えていた。
 その発言通り、アドラス様の所業が世間に知られたら厄介なことになる。この三年間で築き上げてきたヴェレスタ侯爵家に対する印象を、覆す程のものだ。

「あっ……妹のヘレーナ様に関しては、残念でしたね。お悔やみ申し上げます」
「お気遣いいただき、ありがとうございます。しかしながら、残念という訳でもありません。むしろヘレーナが生きていた方が、フォルファン伯爵家にとっては厄介だったくらいです」
「まあ、そう考えるのも仕方ないことではあるのですよね……」

 ヘレーナの死に関しては、私も色々と思う所がないという訳ではない。
 ただ、生きていたらアドラス様のように困らされることになっていた。しかし、死んでくれていてよかったと思えはしない。微妙な所だ。
 故にそれについては、考えないことにする。今は目の前のことに、集中するとしよう。