「こちらが、行方不明者のリストです。そして、こちらが今回パルエント島で暮らしていた生存者のリスト……これらを組み合わせると、残った行方不明者は二人になる」
「二人……」
「父上と、ヘレーナ嬢ということですか」

 エルガルスさんの見せてくれた二つのリストを見ていくと、残った行方不明者は確かにアドラス様とヘレーナということになる。
 それは一体、何を意味しているのだろうか。ただの偶然、そう片付けられることではない。

「しかしおかしいのです。船の中から見つかった二名の遺体は、身なりのいい女性と浮浪者らしき男性です。身なりのいい女性は、ヘレーナ嬢だと考えられる。しかし浮浪者らしき男性が、前ヴェレスタ侯爵であるとは思えない」
「ええ、当時のアドラス様の身なりは良かったはずです」
「となると、矛盾が生まれる。この浮浪者らしき男性は、一体誰なのでしょうか? そして前ヴェレスタ侯爵はどうなったのでしょうか? 色々な疑問が生まれてきます」

 エルガルスさんの言葉に、私達はゆっくりと頷く。
 この船の事故は、何かが変だ。私達は、そのことについて考えなければならない。

「亡くなった二人は、拘束されていたのですよね? 身動きが取れなくて亡くなった、ということなのでしょうか?」
「ええ、船は傾いていたようなのですが、生存者達はその上部にいたらしいのです。そこまではなんとか逃げることができたそうです。そして船が全て沈む前に、島に辿り着いたようですね。それは奇跡としか言いようがない出来事です」
「奇跡、ですか……まあ、そうですよね」

 そもそもの話、島に流れ着いたということが奇跡的なことではある。
 結果的にではあるが、拘束されていた二人以外は助かった。それにより、不自然さが浮き彫りになったといえる。

「パルエント島の周辺は特殊な海流に覆われていて、普通は辿り着けません。そもそも事故が起こったことが不幸ではありますが、そこだけは幸いだったといえるでしょう」
「……二人を拘束した人物は、まず間違いなく悪意を持ってそうしたのでしょうね」
「……その人物は、父上である可能性が高いという訳ですか」

 私の言葉に対して、アドールは低い声で呟いていた。
 状況から考えると、彼が考えていることは正しいだろう。二人を拘束したのは、アドラス様である。

 そのアドラス様は、行方不明だ。ただ、行方不明者の数の帳尻が合わない。
 となると、アドラスア様がどこにいるのか。その結論は、自然と出てくる。

「アドラス様は、船の事故に乗じて誰かと入れ替わった。そう考えるべきでしょうね」
「父上は生きている……二つの命を無慈悲に奪い去って」

 私とアドールは、顔を見合わせていた。
 アドラス様が生きている。その事実に私達は向き合わなければならないようだ。