「……申し訳ありませんね。急な訪問になってしまって」
「いえ、それはお気になさらず」

 私とアドールは、ある男性と向き合って座っていた。
 彼は、王国の海軍に所属している男性である。名前はエルガルスさんという。
 私達と彼には、面識がある。エルガルスさんは、アドラス様やヘレーナが亡くなった船の事故の調査を担当していたのだ。

「しかしどうして、あなた方には伝えなければならないと思っていまして。実は船が見つかったんです」
「船が?」
「見つかった?」

 エルガルスさんの言葉に、私とアドールは顔を見合わせた。
 船が見つかった。その事実はとても大きなことだ。もしかしたら、行方不明になっていたアドラス様やヘレーナも見つかるかもしれない。

「パルエント島という場所に、船は流れ着いていたようなのです。そこで暮らしている民族と先日コンタクトが取れました」
「パルエント島、ですか? 聞いたことがありませんね……」
「ええ、最近まで未踏の地でしたからね。船はそこに流れ着いていたようなのです。それも、生存者とともに」
「生存者ですって?」

 私は思わず、身を乗り出しそうになっていた。
 生存者がいる。それは驚くべき事実だ。ついつい身を乗り出したくもなる。
 アドールも驚いているらしく、目を見開いて固まっている。私達が考えていることは、恐らく同じだろう。行方不明となっていた父親や妹が生存しているのではないか、ということだ。

「申し上げにくいことではありますが、前ヴェレスタ侯爵やヘレーナ嬢の生存は確認できていません」
「そ、そうですか……」

 エルガルスさんは、すぐに私達の疑問の答えをくれた。
 当然といえば当然ではあるが、彼もわかっていたのだろう。私達が一番気になっているのが、なんなのかということを。
 ただ彼の歯切れは、少し悪いような気もする。言い方に何か、含みがあるのだ。

「エルガルスさん、何か懸念点があるのではありませんか?」
「……流石ですね。実は気になっていることがあるのです」
「気になっていること?」
「事故の生存者は、パルエント島でこの三年間暮らしていたそうです。民族は友好的であり、生存者達は彼らと協力して当時の船の状態の記録を残していました」
「記録……そこから一体が何がわかったのですか?」
「船の中で亡くなっていたのは、二名の方です。一人は身なりがいい少女、もう一人は浮浪者のような男性だったそうです。その二人は縛られていたのです。逃げられないように」

 エルガルスさんの言葉に、私もアドールも固まっていた。
 彼が語っていることは、明らかにおかしなことだ。それは船の事故の裏で、何かが起こっていたことを表している。
 そして身なりがいい少女には心当たりがある。それはもしかして、私の妹のヘレーナなのではないだろうか。