時が経つのは、早いものである。
 目の前にいるアドールを見ると、ついそう思ってしまう。
 彼がヴェレスタ侯爵を継いでから、もう三年の月日が経った。子供だったアドールも、今は立派な侯爵だ。いや、まだ子供ではあるのだが。

「なんというか、感慨深いというべきことでもありませんが、やっとという感じがします」
「……そうね」

 私と違って、アドールはこの七年間の月日を長いものだと考えているようだ。
 その辺りは、時間の感じ方の違いということだろうか。子供と大人とでは、その辺りの感覚は結構異なっているのかもしれない。

「これでやっと、義母上と義父上が正式に結婚することができます」
「ええ、嬉しいことと言ってもいいのかしら?」
「もちろんです。今日はパーティーを開きましょう」
「少々不謹慎なような気もするのだけれどね」

 船の事故にあったアドラス様は、ずっと行方不明という扱いだった。
 生死不明であるため、ある程度の期間が経たなければ離婚することができない状況だったのである。
 今日はその離婚が認められた日だ。また一つの区切りが、ついたのである。

「ロナーダ子爵も、きっと喜んでくれますよ」
「そうかしら? 私とリヴェルト様との結婚は喜ぶ人だけれど、離婚で喜ぶような人ではないような気がするわ」
「ああ、言われてみればそうかもしれませんね」

 ロナーダ子爵には、ずっと良くしてもらっている。
 リヴェルト様との婚約にも賛同してもらっているし、とてもお世話になっている存在だ。

「まあ、私の家族やストーレン伯爵は喜ぶかもしれないわね……」
「ああ、伯父様なんかはそうでしょうね。義母上や義父上には好感を抱いていて、父上のことがお嫌いですから」

 私の家族は、アドールのことは気に入っている。お父様やお母様なんかは本気で孫扱いしているし、お兄様も結構な伯父様気分だ。
 ただ、私とアドラス様との夫婦関係については、早く途切れることを望んでいた。それはヘレーナにも原因があったとはいえ、貴族としてひどい裏切りを受けたからだろう。
 ただ、憎しみという観点においてはストーレン伯爵の方が上だ。彼はアドールのことを溺愛する反面、アドラス様のことは忌み嫌っている。

「まあ僕としては、父上の負の遺産がまた一つ取り払えるというのが嬉しい所です」
「負の遺産……まあ、そういうことになるのかしらね」
「この三年間、随分と苦労させられましたからね。色々な方々の助けがあったから、乗り越えられた訳ですが」
「そうね……」

 アドラス様のせいで、アドールはとても苦労してきた。
 ロナーダ子爵家やストーレン伯爵家、それから王族が味方についたことでなんとか乗り越えた訳ではあるが、それは決して平坦な道ではなかったといえる。
 今こうして談笑できていることは、本当に幸せなことだ。私は改めて、それを実感するのだった。