「アドール、あなたは何が言いたいのかしら?」
「リヴェルト様に、提案があるのです」
「提案、ですか?」

 アドールは、姿勢を正してリヴェルト様のことを見つめていた。
 それは恐らく、真剣な話をしようとしているということだろう。
 この流れで真剣な話となると、思い当たることがない訳ではない。ただ、私はとりあえず成り行きを見守ってみることにする。

「お義母様と婚約していただけませんか?」
「……なんですって?」

 アドールの言葉に、リヴェルト様は驚いていた。
 もちろん、私も驚いていない訳ではない。しかし事前に少しだけ予想していたことではあるため、そこまでの驚きはなかった。

「お義母様と婚約していただけないかと思って……ああもちろん、お義母様は正式に父上と離婚できているという訳ではないので、しばらく待ってもらうことにはなるのですが」
「……どうしてそのようなことを仰るのか、理解ができないのですが」
「お義母様は、難しい立場に立たされています。正直な所、再婚も難しいでしょう。ですが、やはり身は固めてもらいたいと思っています。もちろん僕が守るつもりではありますが、まだ子供の僕では充分に守れるという訳ではありません。だから、リヴェルト様にお願いしたいのです」

 アドールの提案は、突拍子もないものだ。とんでもない提案である。
 しかし私としては、なんというかとても嬉しかった。それが私のことを深く考えた上で、提案してくれたことであるとわかったからだ。

 先程まで困惑していたリヴェルト様も、今は少し表情を変えている。
 アドールの気持ちは、彼にも伝わったということだろう。

「……なるほど、深く考えた上での提案でしたか」
「ええ、もちろんです」
「しかし、どうして私に」
「リヴェルト様のことを兄上のように思っていると言ったでしょう? そんなあなたになら、お義母様を任せられると思っているのです」
「……立派になられましたね」

 アドールに対して、リヴェルト様は笑みを浮かべていた。
 その言葉に対して、少し感慨深さを覚えているようだ。
 確かに、彼の言う通りではある。アドールはこの短期間で、随分と立派になった。元々大人びていたけれど、また一皮むけたのではないだろうか。

「しかしそれは、私の一存で決められることではありません。そもそも、当人の気持ちというものがありますからね」

 そこでリヴェルト様は、私の方を向いた。当然のことながら、色々と言いたいことがあるということだろう。
 私はとりあえず、深呼吸しておく。これからリヴェルト様と言葉を交わす上で、心を落ち着けておく必要があったからだ。
 それから私は、正面の彼を見る。すると真剣な顔をしたリヴェルト様の顔が、しっかりと見えた。