「リヴェルト様、アドールの言う通り、そう固く考える必要はないと思いますよ?」
「……いや、それは」
「ここには私とアドールしかいません。そんな中で軽い口を聞いた所で、咎める人なんていませんよ」
「しかし、だからといって礼儀というものはあると思うのです」

 アドールの味方をして発した私からの言葉にも、リヴェルト様は微妙な反応を返してきた。
 根本的な部分で、彼は真面目だということなのだろう。こんなことはもっと簡単に考えてもいいというのに。
 いやそれは、私が前ヴェレスタ侯爵夫人だから、そう思えるのだろうか。立場によって、感じ方は結構変わるものなのかもしれない。

「リヴェルト様は結構固いですよね……そういった所は、尊敬できる所でもありますが」
「そ、そうですか……」
「でも、僕にとってリヴェルト様は兄上のような存在です。ずっと欲しいと思っていたんです。上の兄弟などが……下の兄弟は、今からでも望めない訳ではありませんが、そちらは可能性が低いですからね」

 アドールはずっと、兄弟に憧れているのかもしれない。
 そういえば前にも、弟や妹が欲しいと言っていたような気がする。あの時私は、確かヘレーナのことで彼をがっかりさせたのではなかっただろうか。

「お兄様ということなら、私にも尊敬できるお兄様がいるわね」
「ああ、ハルベルク様ですか?」
「ええ、今回のことでも色々とお世話になっているし、今度何かお礼をしないといけないわね……」

 私がこのヴェレスタ侯爵家に留まっていられるのは、実の所お兄様の助力があるからだ。
 アドールの傍を離れられなかった私に代わって両親を説得してくれたのは、他ならぬお兄様なのである。
 今でも、ヘレーナのことで色々と苦労しているだろうし、今回の件ではかなり被害を受けているといえる。そんなお兄様への労いは、忘れてはいけないような気がする。

「兄と呼んでいただける程に慕っていただけていることは、嬉しく思います。ただ、それでもあなたはヴェレスタ侯爵で、私はロナーダ子爵家の次男でしかありません」
「なるほど、それはリヴェルト様のこだわり、なのでしょうか?」
「こだわり……まあ、そうなのかもしれませんが」
「それなら仕方ありませんね……でも、関係が変わるなら話は別ですよね?」
「……はい?」

 アドールの言葉に対して、リヴェルト様は怪訝な顔をした。
 それは私も同じである。今アドールは、何の話をしようとしているのだろうか。
 なんというか、雲行きが怪しくなってきたような気がする。いや、怪しいというのも正しくはない。ただとにかく、変な空気だ。