「よく考えてみれば、私が部屋に入ってもいいものなのでしょうか?」
「別に構いませんよ?」
「……そうですか」

 私の部屋までやって来たリヴェルト様は、少し躊躇うような素振りを見せた。
 紳士的な彼からしてみれば、女性の私室に入るのは躊躇うようなことであるのだろう。
 ただ、そんなことは私からしてみればどうでもいいことだ。何も気にする必要などはない。

「リヴェルト様、ここまで連れて来てくださりありがとうございました。お陰で助かりました」
「段々と酔いはさめてきたみたいですね?」
「そうみたいです。私、相当酔っていたんですね」
「ええ、恐らくはそうだと思います」

 ここに来るまでの道中で、私は自分が先程まで酔っていたということを自覚することになった。
 今でも真っ直ぐ歩ける自信がないくらい、私の体にはお酒が回っている。自分がこんなにもお酒に弱かったなんて、結構驚きだ。

「ですから、ベッドまではよろしくお願いします。あ、でも静かにしてくださいね。多分、アドールが寝ていますから」
「わかりました」

 リヴェルト様は、慎重に部屋の戸を開けて中へと足を進めていく。
 私も彼に支えられて、中へと入る。部屋が暗いため、辺りはよく見えない。ただベッドの場所くらいは、リヴェルト様もわかるはずだ。大きなものなので、存在感はある。

「んっ……」
「おや……」
「あら……」

 ベッドの近くまで来た私とリヴェルト様は、聞こえてきた声に少し驚いた。
 アドールは、ゆっくりと体を起こしてこちらにその顔を向けてきている。どうやら、起きているようだ。

「フェレティナ様……いえ、お義母様、戻られたのですね?」
「え、ええ、えっと、起きていたの?」
「いなくなったことは、なんとなくわかっていました。それから眠ってはいましたよ。浅い眠りではありますが……」

 私は、とりあえず明かりをつけておく。アドールが起きている以上、こそこそとしている意味はないと思ったからだ。
 彼は、眠たそうな目をしている。今まで寝ていたことは、本当のようだ。

「でも、どうしてリヴェルト様が一緒に?」
「え? えっと、それは……」

 アドールの素朴な疑問に対して、私はすぐに言葉を返すことができなかった。
 夜中に起きて、お酒を飲む。それは凡そ、良い大人の行動ではなかったからだ。
 むしろそれは、悪い大人といえるかもしれない。アドールの見本にならなければいけない立場として、不甲斐ない限りだ。

 私は横目で、リヴェルト様の方を見てみる。
 すると彼も、ばつが悪そうな顔をしていた。恐らく、大体私と同じことを考えているのだろう。