アドールが寝静まってから、私は屋敷の食堂に来ていた。
 彼と家族であることを改めて認識できたからか、はたまたお義母様と呼ばれたからか。理由は様々あるとは思うが、私の気分はなんだか高揚していて、眠ることができなかったのだ。

「あら?」
「おや……」

 そんな訳でやって来た食堂に一人の男性がいて、私は少し驚くことになった。
 その人物リヴェルト様も、私の来訪には驚いているらしい。こんな時間に、人が来るとは思っていなかったのだろう。

「リヴェルト様、こんな時間にこんな所で……晩酌ですか?」
「え、ええ、まあ、そんな所ですね」

 リヴェルト様の前には、ワインとグラスが並んでいた。
 彼がワインを嗜むなんて、私は知らなかった。夕食などの時に、彼はそういったものを求めない。だからてっきり、お酒の類は飲まないものだと思っていたのだ。

 しかしこういった時間帯にこっそり飲むという行為には、色々と心配になってくる。
 もしかして、何かストレスが溜まっているとかだろうか。その可能性はある。なんだかんだ言って、私達はリヴェルト様をこのヴェレスタ侯爵家の政務で頼りにしてしまっているから。

「何かあったのですか? 良かったら、話を聞きますよ。私で良ければ、ですけれど」
「ああいえ、別に特別なことがあったという訳では……いや、特別と言えば、特別なのかもしれませんね。フェレティナ様、外を見ていただけますか?」
「外、ですか?」

 リヴェルト様の言葉に、私は窓の外の様子を伺った。
 すると目に入ってきたのは、光り輝く丸い月と星の数々だった。
 もしかして、今日は満月の日なのだろうか。確信は持てない。ただ一つだけ確かなことは、とても綺麗だということである。

「夜空が綺麗だったから、お酒を飲んでいた、ということですか?」
「ええ、そうですね……」
「それはなんだか、風流ですね」
「いや、あはは……」

 リヴェルト様は、苦笑いを浮かべていた。
 それはきっと、少しロマンチックなことをしたことを恥ずかしく思っているのだろう。
 確かに、彼がそういったことをしているのは意外なことではある。ただ、別にそれは恥ずかしいことではないと思う。むしろ、素敵なことだ。

「リヴェルト様は、素敵な方ですね」
「え?」
「夜中に空を見上げて、綺麗だと思ってそれを楽しめる。そういった方は、心根が優しいといいますか……素敵な方だと思います」
「そ、そうでしょうか? そう言っていただけると、こちらとしては嬉しいですが」

 私の言葉を受けて、リヴェルト様はゆっくりと目をそらしてきた。
 私も言ってから、少し恥ずかしくなっている。気分が高揚していたからか、結構大胆なことを言ってしまった。もう少し考えてから、喋るべきだったかもしれない。