玄関で話すのもなんだったので、私達はとりあえずエメラナ姫を客室に招いた。
 ただ、エメラナ姫はずっと顔を隠したままである。指の隙間から、時々私の顔をちらちらと伺っているだけだ。
 しかしずっとそうしている訳にもいかないし、そろそろ尋ねるべきだろうか。

「あの、エメラナ姫、初対面で緊張していらっしゃるのかもしれませんが、そろそろ顔を見せていただけないでしょうか?」
「は、はい。ただいま……」
「ありがとうございます」

 私がお願いすると、エメラナ姫はその顔をかなり恥ずかしそうにしながらも見せてくれた。
 その顔は、まだ真っ赤だ。どうやらかなり緊張しているらしい。
 そんな彼女に対して、どう接していくべきだろうか。まずは私のことをわかってもらうことが、先決かもしれない。

「えっと、私の名前はフェレティナと言います。ヴェレスタ侯爵夫人……ああいえ、エメラナ姫の助言もあって、アドールが正式にヴェレスタ侯爵を襲名したので、今は前ヴェレスタ侯爵夫人ということになりますね」
「あ、はい……」
「フォルファン伯爵家の長女で、そうですね……好きな食べ物は――いえ、こんなことは不要ですよね」
「そ、そんなことはありません」

 エメラナ姫は、私の言葉にたどたどしく答えてくれた。
 その様は可愛らしいのだが、いくらなんでも緊張し過ぎであるような気がする。王族である彼女は、人前に出ることも多い訳だし、私と話すだけでそんなにも動揺するものなのだろうか。

 そう考えて、私はあることに気付いた。
 彼女が玄関でアドールに見せた態度、それがここまで緊張する要因なのではないだろうか。
 私の予想が正しければ、彼女はアドールに好意を抱いている。一応母親である私に対して緊張するのは、当然といえば当然なのかもしれない。

「で、でも、フェレティナ様はお綺麗ですね?」
「え? そうですか?」
「はい。とても美人さんです」
「ふふ、エメラナ姫は口がお上手ですね」

 エメラナ姫は、私のことを突然褒め称えてきた。
 そうやってお世辞の類を言うのも、私がアドールの母親だからに思えてならない。
 しかし状況的にそれを確かめることもできないため、私は悩むことになった。こんな風に緊張されると、私としてもやりにくいのだが。

「いえ、お世辞ではありませんよ。私は本当に、フェレティナ様が美人だと思っています。私は、面食いですから」
「……え?」

 悩んでいた私は、エメラナ姫の言葉に硬直することになった。
 今彼女は、なんと言ったのだろうか。凡そ王族らしからぬことを言っていたような気がする。
 ただそれは、私の気のせいかもしれない。いや、きっと気のせいだ。王族がそんなことを言うはずはないのだから。