国王様から直々に手紙が届いてから、程なくしてある人がヴェレスタ侯爵家を訪ねて来た。
 その人物とは、エメラナ姫である。彼は付き人らしい老紳士ボレントさんを携えて、訪ねて来たのだ。
 私とアドール、そしてリヴェルト様の三人は、玄関にて彼女を迎え入れている。相手が王族ということもあって、私は少し緊張気味だ。

「エメラナ姫、今回のことは本当にありがとうございました。感謝しています。とても助かりました」
「アドール、そんなことを言わないで。私とあなたの仲じゃない」

 エメラナ姫は、両手を開いて言葉を発していた。
 それはなんというか、抱きしめて欲しいという合図であるように思える。
 ただ、アドールはまったく動かない。紳士である彼は、子供同士の戯れであっても、女の子に触れようとは思わないようだ。

「親しき仲でも礼儀は忘れていけないと思っています」
「アドールは真面目だよね。でも、思っていたよりも元気そうで良かったかも」
「え?」
「お父様がいなくなって、もっと落ち込んでいるのかなって、思っていたから」
「ああ……」

 エメラナ姫は、アドールに対して少し気まずそうな顔をしていた。
 例え子供であっても、いや子供だからこそ、父親がいなくなったということの大きさはよく理解しているのだろう。彼女の表情からは、それが伝わってきた。
 ただ、それに対するアドールの反応は薄い。彼にとっては、既に割り切れていることだからだろう。

「それについては、問題ありませんよ。僕は元気ですから」
「そうなの?」
「ええ、こちらにいるフェレティナ様のお陰です」
「フェレティナ様って、アドールの継母だったよね? えっと、そちらの方が……」

 アドールの言葉によって、エメラナ姫の視線がこちらに向いた。
 次の瞬間、彼女は固まった。目を丸めて、硬直してしまったのだ。

 その反応に、私は驚くことになった。どうして私の顔を見て、そんな風になるのだろうか。それがわからず、アドールの方を見る。
 すると彼も、驚いたような顔をしていた。親しくしているアドールでさえ、エメラナ姫が硬直した理由はわからないようだ。
 となると、付き人であるボレントさんに聞くべきだろうか。そう思って私が視線を向けると、彼はここに来た時から変わらぬ穏やかな笑みを浮かべていた。

「ご心配なく、姫様は少し驚いていらっしゃるだけですから」
「驚く? 私に、ですか? 何故……」
「ううっ……」

 ボレントさんの言葉の後に、エメラナ姫は両手で顔を隠した。
 よく見てみると、その耳が真っ赤だ。これはもしかして、人見知りしているとかそういうことなのだろうか。