ストーレン伯爵の次に返信が来たのは、驚くべき所からだった。
 手紙を見て、私は正直動揺している。リヴェルト様もそれは同じだ。

「まさか国王様から直々に手紙が届いてくるなんて、思っていませんでした」
「ええ、そうでしょうね。私も驚いていますよ。しかし、アドール侯爵令息はそうでもないようですね? もしかして、何か心当たりでもあるのですか?」
「……まあ、そうですね。ないという訳ではありません。確証があるという訳でもないのですが」

 リヴェルト様の質問に、アドールは少しその表情を強張らせていた。
 その心当たりとは、あまり良いものではないのだろうか。私は少し、心配になってきた。
 ただ、手紙の内容はとても良いものである。アドール及びヴェレスタ侯爵家にとって、有利になることしか書いていないのだ。

「なんというか、とても温かみに満ちた手紙だけれど、アドールは国王様と親しくしていたのかしら?」
「いいえ、国王様とはそこまで……親しくさせてもらっているのは、エメラナ姫とです」
「エメラナ姫……」
「なるほど、王女殿下ですか」

 アドールの言葉に、私はリヴェルト様と顔を見合わせた。
 当然のことながら、エメラナ姫のことは知っている。この国で知らない人なんて、ほとんどいないだろう。王女殿下は、天真爛漫な少女だ。
 そういえば、彼女はアドールと同い年である。そういった点から、親交があってもおかしくないのかもしれない。

「でも、どうしてアドールはそんな顔をしているの?」
「いえ、少し申し訳なく思ってしまって……」
「申し訳ない、ですか? アドール侯爵令息がそのように思うことは、ないと思いますが」
「……国王様は、エメラナ姫に逆らえないのです。この手紙には、きっと彼女の意思が多分に含まれていることでしょう。そうしてくれたエメラナ姫にも申し訳ありませんし、従わざるを得なかった国王様にも申し訳ありません」

 アドールが表情を強張らせたのは、申し訳なさからだったようだ。
 以前に私が言ったことを忘れた訳ではないと思うが、心根の優しい彼は、繋がりを利用していることに心を痛めているということだろう。
 貴族ならば、人脈というものは一つの武器であると考えればいいと、私は思っている。ただそう簡単に割り切れることでもないことも、理解できない訳ではない。

「まあ、エメラナ姫もご厚意でそうしてくれたのでしょうし、そんなに重たく考えないで感謝しておけば良いのではないかしら?」
「そうですよね……」

 私の言葉に、アドールはゆっくりと頷いた。
 何はともあれ、国王様が実質的に味方についてくれたことは、私達にとってとてもありがたい。エメラナ姫には、心から感謝しなければならないだろう。