ストーレン伯爵が帰宅した日の夜、私は自室にアドールを招いていた。いつも通り、話したいことがあるからだ。
 色々とごたごたしているため、お互いに落ち着いて話せるのは夜くらいだ。その結果として、アドールと一緒に就寝することになる訳だが、それはまあ別に問題ではないだろう。

「まあとりあえず、ストーレン伯爵の協力が得られたのは良かったわね」
「ええ、そうですね。まさか伯父様があれ程までに僕のことを思っていたとは、知りませんでした」

 私の言葉に対して、アドールは笑顔を浮かべていた。
 ストーレン伯爵の協力が得られたことが、とても嬉しいということだろう。

「フェレティナ様? どうかされましたか?」
「え?」
「なんだか、浮かない顔をされているような気がしますが……」
「そ、そうかしら?」

 そこでアドールは、私の表情について質問してきた。
 浮かない顔をしているという指摘は、あながち間違っていないだろう。正直私は今、中々に複雑な心境だ。
 アドールの味方が増えたことは、嬉しいと思っている。ただ嬉しい反面、微妙な気持ちにもなってしまうのだ。

「……まあその、アドールはストーレン伯爵のことを随分と慕っているような気がするというか、リヴェルト様だってそうだけれど」
「えっと……」
「ごめんなさい、なんでもないわ」

 アドールは、リヴェルト様にもストーレン伯爵にもよく懐いているような気がする。
 二人とはある程度の面識もあったようだが、なんだか距離感が近いと思うのだ。
 別にそれが悪いことという訳でもないのだが、私としてはなんだか気持ちが浮ついてしまう。心穏やかでいられないというのが、正直な所だ。

 それは我ながら、とても下らない感情である。
 だが、そういった感情が私の中にあるのは紛れもない事実だ。もちろん、それはアドールに言っても仕方ないことなのだが。

「……僕は、フェレティナ様のことを慕っていますよ?」
「え?」
「伯父様にもそう言いました。今こうしてここにいるのだって……なんだか少し、恥ずかしいですけれどね」

 アドールの言葉に、私は少し驚いていた。
 その頬を少し赤くしながらそんなことを言われたら、どうしていいかわからなくなる。
 ただ自然と、笑みは零れていた。口の端が上がることを、抑えることができない。

「そう言ってもらえるのは、とても嬉しいわ。私もアドールのことは、大切に思っているわよ?」
「僕も嬉しいです、フェレティナ様」

 子供に気を遣わせてしまったことは、申し訳なく思っている。
 しかしもしかしたら、私達はこうしてお互いへの思いを打ち明けておいた方が、良いのかもしれない。
 私とアドールとの間には、確かな絆がある。だがその絆には、明確な名前がつけられない。だからこそ、確かめ合うことが必要であるように思えるのだ。