「アドール、俺はお前のためにならなんだってするつもりだ。しかしながら、アドラスのことは許せない。俺は奴を見つけ出して、その報いを受けさせる。それはお前がなんと言おうと、揺るがない。それが許容できないというなら、俺はお前の味方になることにはできない」
「伯父様……」

 ストーレン伯爵は、アドールのことをじっと見つめていた。
 彼の視線には、力がある。アドラス様に対して、本気で憎しみを向けていると考えて、間違いないだろう。
 それは子供であるアドールにとって酷なことではある。しかし彼なら大丈夫だ。そう思って私は、口を挟まないことにする。

「伯父様のそのお気持ちは、嬉しく思います。父上を恨むのも、僕を思ってのことでしょう。伯父様が僕のことをそんな風に思ってくださっているなんて、知りませんでした」

 ストーレン伯爵からの言葉に、アドールはそのような言葉を呟いた。
 彼の表情には、明るさがある。その言葉は、嘘ではないのだろう。
 伯父が味方であるということは、彼にとってきっととても心強いはずだ。その笑顔からも、それは伺える。

「しかし伯父様、父上はもう既に報いを受けました」
「……何?」
「やはり、知らなかったようですね……父上は、先日船により事故で行方不明になっているのです」

 アドールの言葉に、ストーレン伯爵は驚いていた。
 ここに来る道中で、それらに関する情報は耳にしていなかったようだ。

「状況からして、生存は絶望的でしょう……ただ僕は、そのことについて何か思う所があるという訳ではありません。父上に対する情というものは、僕の中には既にないのです」
「……」

 そこでアドールは、私の方に視線を向けた。
 彼は父親のことを既に割り切っている。それも別に嘘という訳ではないだろう。

 ただ、不安がないという訳でもないようだ。私のことを見つめているのは、だからだろう。
 だから私は、そっと手を差し伸べた。するとアドールは、それをしっかりと握りしめてくれる。

「……なるほど。そういうことなら、俺がわざわざ動く必要もないということか」
「ええ、その通りです」
「ふっ……」

 ストーレン伯爵は、アドールの言葉に対して笑みを浮かべていた。
 ただ彼の視線は、先程から私の方に向いている。つまりその笑みは、アドラス様が行方不明になったことに対するものではないということだ。
 アドールを任せられる存在として、私を認めてくれたということだろうか。それは私にとって、とても嬉しいことである。