冷静沈着な人であるとは聞いていたが、実際に顔を合わせると、それは確かなものだとより色濃く理解することができた。
 鋭い目をしたストーレン伯爵は、アドールの隣にいる私に視線を向けてきている。妹の結婚相手の後妻にして、甥っ子の継母である私のことを、見極めているということだろうか。

「伯父様、お久し振りですね」
「ああ、アドール。お前も随分と大きくなったものだな」
「最後に顔を合わせたのは、それこそ母上の葬儀の時でしたか……あの頃から比べると、確かに僕も大きくなっているのかもしれません」

 ストーレン伯爵は、低い声でアドールに話しかけていた。
 全体的に、重苦しい雰囲気を纏っている人だ。これはアドールが恐れるのも、仕方ないことかもしれない。
 そんな彼のことを、私は見極めなければならないだろう。敵か味方か、それはとても重要な事柄である。

「色々と大変だったようだな?」
「そうですね……しかし、なんとか乗り越えることはできました」
「……妹が亡くなっているとはいえ、お前が俺の甥であるという事実は変わらない。そんなお前が困っているのだ。俺ももちろん、力を貸すとしよう」

 ストーレン伯爵は、アドールに対して寄り添う発言をした。
 なんとなくではあるが、その言葉に裏はないような気がする。彼の甥を見る目は、鋭いながらも優しげだ。彼は本当に、アドールの力になろうとしているように思える。
 少し気になるのは、彼が先程から私に目を向けていることだろうか。彼にとって、私の存在は何か不都合があるのかもしれない。

「しかしアドール、俺には一つだけ許せないことがある。お前の親のことで、だ」
「親……」
「大抵のことは許容できる俺でも、これだけは譲ることはできない。それだけ歪なことだからだ」

 ストーレン伯爵の言葉に、アドールは少し身を縮こまらせた。
 今の言葉の意味は、どういうものなのだろうか。そう考えると、ある一つの結論に達することができる。
 恐らくストーレン伯爵は、私のことを言っているのだろう。

 ここに私がいることが気に食わないと思うのは、ストーレン伯爵からすれば当然のことであるといえる。
 私は彼がヴェレスタ侯爵家を狙っている可能性を考えたが、それは相手にとっても同じことであるだろう。
 普通に考えたら、私は自分の家に帰るはずだ。そうしないということは、何かしらの意図があるということになる。

 甥のことを思っていればいる程、私の存在は怪しく映るだろう。
 ヴェレスタ侯爵家の財産などを狙って残っている。客観的に見れば、そう見えても何もおかしくはない。
 それを私は、すっかり失念してしまっていた。私とアドールとの繋がりは、他者から見れば希薄なものだったのだ。