「なるほど……どうやら大変なことになっているようですね」

 話を聞いたリヴェルト様は、少し引いているようだった。
 少し仰々しく話し過ぎてしまっただろうか。私は少し心配になってきた。

「ヴェレスタ侯爵夫人……いえフェレティナ様、あなたにこのようなことを言うことは無駄ではあるかもしれませんが、一つだけどうしても言いたいことがあります」
「あ、はい。なんでしょうか?」
「アドラスは屑です」
「……え?」

 そこでリヴェルト様は、その表情を強張らせて、少し低い声を出してきた。
 その言葉に、私は少し面食らってしまう。前置きはあったものの、唐突な言葉であったからだ。
 とはいえ、その怒りが私に向けられているものではないことは明白である。彼は、アドラス様の行いにかなり怒っているらしい。

「立場上、私も貴族の悪い話は何度か聞いたことはあります。しかしアドラス様の行いはその中でも非道の極み、妻と息子を置いて妻の妹と駆け落ちするなど、外道としか言いようがない。その行為は、到底許せるものではありません」
「そ、そうですか……」

 リヴェルト様の激しい怒りに、私は少し気圧されていた。
 もちろん私もアドラス様の行いには思う所はあるのだが、彼程に激昂した訳でもない。そのため、少し気持ちが追いついていないのだ。
 もっとも、彼がそうやって怒ってくれるのは、私からすれば嬉しいことではある。やはり彼に話して良かったかもしれない。どうやら彼が父親と同じく人格者であることは、間違いなさそうだ。

「フェレティナ様、あなたは今苦境に立たされていることでしょう。もしよろしかったら、力をお貸ししますよ?」
「力、ですか?」
「ええ、元々私はそのつもりでここに来た訳ですからね。それは父上の命令でしたが、今は私自身もあなた方の力になりたいと思うようになりました」
「リヴェルト様……」

 リヴェルト様は、私の前まで来て跪き、その手を差し出してきた。
 私が言えた義理でもないのだが、彼もなんとも仰々しく振る舞うものである。私は彼の同情を誘うための演技だった訳だが、彼もそうなのだろうか。
 しかし、彼の申し出はどの道ありがたい。害する意思はなさそうだし、ここはその手を取った方が良いだろう。

「リヴェルト様、どうかよろしくお願いします」
「ええ、何なりとお申し付けください」

 私は、リヴェルト様の手を取った。
 突然の訪問者ではあったが、思わぬ味方が得られたのは収穫だ。これで少しは、楽になるかもしれない。