「ああ、そうだわ。せっかく訪ねて来てくれたのだし、アドールに一つお願いしてもいいかしら?」
「はい、なんですか?」

 昼間のことに関する話が一段落ついたため、私はアドールがここに来た本題について触れてみることにした。
 もちろんそれは私の推測でしかない訳ではあるが、枕まで持ってきているのだし、恐らく間違ってはいないだろう。

「さっきも言った通り、なんだか眠れなくてね……せっかくだから、少しの間話をしてもらいたいの。もしよかったら、このまま寝転びながら話さない? そうしたら、眠気がきたらすぐに眠れるでしょう?」
「それは……僕もここで寝ても良いということでしょうか?」
「ええ、そう言っているの」

 私は、適当な理由をつけて、アドールに提案してみた。
 それに対して、彼は目を丸めている。 しかし彼の目はすぐに細まり、申し訳なそうに笑顔を浮かべた。
 今回に関しても、少々強引だったということだろうか。彼には私の魂胆が見抜かれてしまったらしい。

「フェレティナ様は、お優しいのですね?」
「……何の話かしら?」
「いえ、そういうことならここで眠っても、一緒に寝てもいいですか?」
「ええ、私からお願いしたいくらいよ」

 結果として気遣われたのは、私の方であるような気がする。
 いまいち格好がつかないため、少しばつが悪い。

「あら、丁度良く枕を持っているものなのね……」
「ええ、僕も驚いていますよ」

 ただ、そういった気持ちはアドールと向かい合ってベッドに寝転がった時点で吹き飛んでいた。彼の安心したような表情に、私もなんだかひどく落ち着いたくらいだ。
 そう考えると、私もかなり不安だったということなのかもしれない。となると、これは私が頼んだことということで、正しいということなのだろう。
 そう思って私は、また自然と笑みを浮かべてしまっていた。するとアドールの方も、笑顔を返してくれる。

「不思議なものね。話したいことは、たくさんあったような気がするのだけれど……」
「ええ、そうですね。なんだか胸がいっぱいです」
「アドール、私はね。あなたの傍にいたいと思っているの。それには理由なんてものはないのよ……ただ私は」
「ありがとうございます、フェレティナ様……本当に、とても嬉しいです。僕はまだ、一人になった訳ではないのですね……」
「そうよ。私はこれからも……」

 少し言葉を交わしただけでも、眠気が襲ってきた。
 それはアドールも同じであるらしい。彼は目を瞑って、ゆっくりと寝息を立て始めている。
 それを確認してから、私も目を瞑った。なんだか、いい夢が見られそうな気がする。