「えっと……とりあえず、ベッドにでも座って」
「あ、はい。失礼します」

 私が促すと、アドールはベッドの上にちょこんと腰掛けた。
 なんというか、今の彼はいつにも増して小さく見える。自分がしようとしている提案を恥ずかしいことだと思い、萎縮しているということだろうか。

 父親を失った子供が、不安になるなんて当然のことである。それで私を頼ったとしても、恥ずかしいことである訳がない。
 そんな風に言った所で、アドールには受け入れられないだろう。彼はただでさえ大人であろうとしているのだから。

 そういうことなら、ここはれっきとした大人である私から提案するべきかもしれない。
 そんなことを思いながら、私はアドールの横に腰掛ける。

「それで、どうしたのかしら? 何か話でもあるの?」
「話……そうですね。話したいことは、色々とあるような気がします」
「そう……でも、今日は早く休んだ方がいいわよ? あなたも疲れているでしょうし」
「……眠ろうと思いました。でも、なんだか全然眠たくならなくて」

 アドールは、少し声のトーンを落としながらそう呟いた。
 恐らく、自室で一人になってから彼には今日のことが重くのしかかってきたことだろう。私もそうだったのだから、まず間違いない。
 そして彼の辛さというものは、私の比ではないだろう。それをこの小さな体で受け止めるなんて、無理な話である。

「……実の所、私もそんなに眠たくないのよね。今日一日、色々とあったからかしら」
「それは……そうですよね」
「ああ、そうだ。昼間はごめんなさいね」
「え?」

 いいい機会であったため、私はとりあえず昼間のことを謝ることにした。
 ここに留まるために、私は彼に色々と言った。もちろん、それはアドールがこれから侯爵として生きていくために、必要なことだったとは思っている。
 ただ、厳しい言い方をしてしまったことは事実だ。それは一度、きちんと謝っておくべきことだと思った。結局作業している間は、事務的な会話しかできなかった訳だし。

「私もまだまだ未熟者であるということでしょうね。あなたに言い聞かせるというなら、もっと良い方法があったかもしれないのに……」
「いえ、フェレティア様の意図はわかっています。僕のために、敢えてあのようなことを言ってくれたのですよね? わかっています。それに、嬉しかった……」
「アドール……」

 アドールは、ゆっくりとこちらとの距離を少し詰めてきた。
 今回の件を通して、アドールは私に今まで以上に心を開いてくれているようだ。
 それを理解して、私は思わず笑顔を浮かべるのだった。