昼休み、思いきって屋上に行くと、柵にもたれたままぼんやり遠くを眺める市川くんがいた。


「い、市川くん。あの……マンガ、読んでくれてありがとう。プロの編集者みたいにいっぱいアドバイスが書いてあって、びっくりしちゃった」

 いつもより高めのテンションでわたしがまくし立てると、市川くんが大きくため息を吐くのが聞こえた。

「……おまえさ、もうここに来んな」

 遠くを眺めたまま、ぼそりと市川くんが言う。

「え」


 なんで突然そんなことを言うの?

 そりゃあ、昨日は友だちじゃない宣言をされて、悲しかったけど。


「読んでるとこ毎回観察されんの、ガチでうっとうしいって思ってたし、パシリももういいわ」

「で、でも、わたし……」

「まさか、本気で俺とダチにでもなったつもりじゃねえよな?」

「……」


 ダメなの?

 友だち……にはなれなくても、わたし、市川くんのことは、少女マンガ仲間だと思っていたのに。


「そーいうふうに付きまとわれるのがうぜえって言ってんだよ。さっさとこっから出てけ!」

 市川くんの怒鳴り声に、びくんっと肩が小さく跳ねる。

「ごめん……なさい」

 パっと屋上から校舎の中へと戻ると、階段を駆け下りる。


 なんなの? わたし、市川くんになにかした⁉

 突然あんなふうにヒドイことを言うなんて。

 やっぱり、ヤンキーはヤンキーなんだ。

 市川くんなんて、大っキライ‼


 ……本当は、わかってるよ。

 市川くんは、自分なんかより、森下さんたちと友だちになっとけって言いたいんでしょ?

 でも、それと市川くんと友だちでいられないのは、全然関係ないじゃない。

 わたしは、市川くんとも友だちでいたいのに。


 いつの間にか、ああやって市川くんと一緒に過ごす屋上での時間が、すごく大切なものになっていたのに。

 ぼっちの方が気楽でいいって思っていたわたしが、まさかこんなことを思うようになるなんて、思ってもみなかった。


 でも、もう元には戻れないのかな、わたしたち……。