クラスでは、市川くんとは対極のぼっちキャラ——真面目でおとなしい——で通しているせいで、余計に心配されてしまっているのかもしれない。

『市川くんになにをされても、文句ひとつ言えないかわいそうな子』って。

 こんなとき、もっとコミュ力の高い人なら、さらっとうまく誤解を解くこともできるのかな……。


 そんなことをぼんやりと考えていたら——ガラガラガラッ。

 ちょうどタイミング悪く市川くんが教室に入ってきた。


 その瞬間、森下さんたちはわたしを背に庇うと、一斉に市川くんを睨み上げる。

「もう市川くんの好きにはさせないんだからね」

「……」

 彼女たちをじっと見下ろしていた市川くんがふっとわたしの方を見て、わたしは思わず視線をそらしてしまった。


 違うの。別に、わたしが市川くんの悪口を言ったわけじゃなくて、森下さんたちが勝手に勘違いして……。

 どうしよう。このままじゃ、市川くんは誤解されたままになってしまう。

 やっぱり……そんなのイヤ。


「ま、待って! わたし、市川くんとは友だち——」

「は? なにキモいこと言ってんだよ。あんたと友だちになった覚え、ねーんだけど」

 市川くんは、怖い顔でわたしのことを睨むと、ふいっと顔をそらして自分の席へと歩いていってしまった。


 え、ちょっと待ってよ。

 わたし、市川くんのこと、みんなに誤解してほしくなくて。

 なのに……。


 そっか。友だちになれたって思ってたのは、わたしだけだったんだ。

 思わず涙が込み上げてきたけど、ぐっと我慢する。


「ほんっとヤンキー最低」

「もう大丈夫だよ、山村さん」

「そうだよ。これからは、あたしたちが山村さんの友だちになるからさ」

「うん、うん。もしまたなにかされそうになったら、絶対相談してよね」

「うん……ありがとう」

 必死に愛想笑いを浮かべて見せると、わたしは自分の席へと向かって歩いていった。


 なんだか鉛のように足が重い。


 そっか。わたし、市川くんの友だちじゃなかったんだ……。