教室に戻ると、わたしのひとつ前の席の森下さんと、森下さんといつも一緒にいるお友だち二人に取り囲まれ、じりっと一歩後ずさりする。


 い、いったい、何事?


「山村さん、大丈夫だった⁉ ごめんね、さっきわたし、見ちゃったんだ。山村さんが、屋上に上がっていくとこ」

「市川くんが屋上を縄張りにしてるってウワサを思い出してさ、うちら、山村さんのこと、心配してたんだよ」


 縄張りっていうか、他の人に見つからない場所を探して辿り着いたってだけな気がするんだけど……。


 それにしても、マズいよ。

 万が一にでも、市川くんのヒミツを他の人に知られたりしたら……。


『てめえ、よくもオレのヒミツをバラしやがったな』って、クマも逃げ出すような恐ろしい目で睨まれて。

『だったらおまえのヒミツも全校生徒にバラしてやる』なんて言って、あのマンガをばらまかれて……!


 ま、マズいよ。

 陰キャぼっちが、胸きゅんマンガ描いてるなんて、笑いのネタにしかならないじゃない。


 キョロキョロと教室の中を見回してみたけど、まだ市川くんの姿はない。

 わたしより先に屋上を出ていったから、てっきり教室に戻ったのかと思ったんだけど。


「山村さん、ひょっとして市川くんに脅されてるの? ほんとごめんね。なかなか気付けなくって」


 脅され、てる……?

 とりあえず、幸いまだ市川くんのヒミツはバレていなさそうだけど、ありもしない悪いウワサが立っちゃってる⁉


 いや、たしかにパシリにはされてるけど、お金はちゃんと払ってくれてるし、それに、今日はわたしのマンガのアドバイスだって引き受けてくれて、貸し借りナシだとまで言ってくれた。

 たぶん、みんなが思っているよりもずっと対等な関係……だと思う。


「これからは、あたしたちが守ってあげるから安心して!」

「そうだよ。ヤンキーの言いなりになんか、なる必要ないって。うちらだって、束になってかかればなんでもできるっつーの」

「いえ、わたし、別に……」

「遠慮しなくても大丈夫だよ。わたしたちが、絶対に味方になってあげるから」

「そうそう」


 うぅっ、言い訳をする隙すら与えてもらえない。