…………。


 この状態、どのくらい続くのでしょうか。

 緊張で、身が持たないんですが……⁉


 しばらくの間、集中した様子で読みふけっていた市川くんが、ふっと顔を上げる。

「あんた、好きなマンガ家は?」

「へ? えーっと……しいて言うなら、白崎カノン先生、かなあ。白崎先生の描く、甘酸っぱくて、胸が苦しくなるような青春が、すごく好き。元々お母さんが二十年以上前から白崎先生のファンで、うちにいっぱい本があって。それを読んで、わたしも少女マンガにはまったの」

「ああ、やっぱな。あんたのマンガ読んで、そんな気がした。白崎カノンへのリスペクトを感じる。いや、もちろん悪い意味じゃなくてな」

 何度かうなずいたあと、ふたたび市川くんが口を開く。

「コマ割りはイマイチだけど、ストーリー自体はいいんじゃね? あとは、もうちょいじれキュンましましな方が、オレ好みかな。『あーもう、さっさと付き合っちまえよ!』みたいなやつ。あとは、お互い想い合っているからこそすれ違う、みたいなやつとか? まあ、オレの好みってだけだけどな」


 市川くんが、今まで見た中で、一番生き生きして見える。


 ……なんだか、かわいい。


 は? ち、ちがうちがう! 全然そういうんじゃないからね⁉

 っていうか、こんな怖そうな人に向かって『かわいい』だなんて、わたし、どうかしてるよ。

 って、わたしはいったい誰になにを言い訳しているんだろ。


「なんだよ。ジロジロ見んな。こっちは真剣に意見してやってんだぞ。バカにすんなら最初からこんなこと——」