わたわたと持っていた手提げからファイルと取り出すと、市川くんに向かって頭を下げながら両手で差し出した。


「……これっ、読んでほしいの」

「なんだ、これ?」

「ま……マンガ」

「マンガ? ……って、ひょっとして、おまえが描いたのかよ」

「うん……マンガを描いてるなんて、誰にも言ったことないし、誰にも見せたこともないんだけど……コンテストに出す前に、誰かに読んでみてほしくて」


 そもそも友だち作りが昔から苦手で、マンガを読んでもらえるような友だちどころか、高校に入学してから、友だちと呼べるような人すらまだ一人もいない。

 気付いたときにはもうクラスのグループは固定されてしまっていて、わたしが入り込む余地はどこにもなかった。

 まあ、ぼっちの方が休み時間を趣味の時間に充てて有意義に過ごせるし、気楽でいいやと思ってしまっているのが、ぼっちの一番の原因かもしれないのだけれど。


「……」

 市川くんは、黙ってファイルを受け取ると、中から原稿を取り出した。

「へえ、ガチでマンガじゃん」

 市川くんが、パラパラとページをめくっている。


 なんだか、自分の裸でも見られているんじゃないかっていうくらい恥ずかしいんですけど……!


「で? これ読んで、感想を言えばいいわけ?」

 わたしを見上げる市川くんと目が合い、思わず視線をさまよわせる。

「えっと……もし、市川くんさえよろしければ……」

 恐る恐るわたしが言うと、市川くんが、ふはっと笑う。

「なに遠慮してんだよ」

「え……と」

「俺はおまえにマンガを買ってきてもらって、おまえはオレにマンガを読んでもらう。これで貸し借りナシ。な」

 そう言うと、改めて視線をマンガに落として、市川くんが無言で読みはじめる。