「はぁ~……、ガチで神だわ、郷中センセ」

 いつものヒミツの待ち合わせ場所——校舎の屋上で、パシらされたマンガの新刊を渡すと、さっそく読破した市川くんが、満足げな吐息を漏らす。


 あれから二ヶ月。すでに少女マンガ発売日翌日の、ありふれた光景となりつつある。

 マンガを読みながら、たまに上がる口角も、涙を堪えようとして鬼みたいにゆがめられる顔も、最初の頃は『あの市川くんが⁉』って、さすがにびっくりしたけれど、今では『うんうん、そこ、いいよね~』なんて本人に直接は言えないけれど、脳内で勝手に会話をしたりしている。

 わたしの視線を感じたのか、市川くんが不意に顔を上げると、チッと舌打ちする。


「あんた、まだいたのかよ。金は前金で渡したろ? まさか、もらってねえとか言わねえよな?」

 市川くんにギンッと睨まれ、ぶんぶんと首を横に振る。

「じゃあ、なんだよ。人が読書してるとこぼーっと見て。……おまえもバカにすんのかよ。男のクセに、こんなもん読んでんのかって」

 心なしか市川くんの声が悲しげに聞こえる。

「ち、違うよ! そんなこと、全然思ってないから」

「じゃあ、なんだよ」

「あのね、実は、市川くんに頼みたいことがあって……」

 心臓が、今にも飛び出してきそうなほどバクバクしはじめる。

「ああん? 『ヒミツをバラされたくなかったら、言うこと聞け』ってか? 俺をゆすろうなんて、おまえ意外といい度胸してんな」

 市川くんの顔が、さっきの十倍くらい険しくなる。

「だから、違うってば! あ、あのね……」