「バカ! あんた、本当になにやってんのよ。お母さん、十年は寿命縮んだじゃない」
市川くんが、迎えに来たお母さんに叱られながら、一緒に警察署を出てきた。
ゆるくウェーブのかかったロングヘアに、市川くんほどではないけれど、すらりとした高身長。しゅっとしたつり目も、市川くんとそっくりだ。
「あのっ……! 市川くんを責めないでください。市川くんは、ただあの場にわたしを助けに来てくれただけで。わたしが全部悪いんです。ぼーっと歩いていたせいで、あんなやつらに捕まってしまって」
市川くんとお母さんの前まで走っていくと、わたしはがばっと頭を下げた。
「……そう。あなただったのね」
市川くんのお母さんが、静かな声で言う。
「本当に、すみませんでした!」
「違う、違う。言葉が足りなかったわね。ごめんなさい。あなたを責めているんじゃないのよ。顔を上げて」
市川くんのお母さんの慌てた声に、そーっと頭を上げると、市川くんのお母さんと目が合った。
「ごめんなさいね。洸に関わったせいで、こんなことに巻き込んでしまって。でも……そっか。洸は、あなたのために、もうケンカはしないって決めたのね」
「え……?」
傷だらけの市川くんを見上げると、ふいっと顔をそらされた。
「……けーさつ呼んで、時間稼ぎしただけ。ケンカはしてねーよ」
ひょっとして、あのときの……。
「山村と約束したからな。それに……汚れた手でおまえの大切なマンガ、触りたくなかったから」
「だからって、市川くんになにかあったら、わたし……なんでこんな危ないこと……」
「少女マンガのヒーローなら、どんな状況でも助けにいくだろ」
「なに言ってんの! あんたは少女マンガのヒーローなんかじゃないでしょ」
お母さんの的確なツッコミが入る。
「わかってるよ、んなこと。それでも、助けに行かないなんて選択肢、あるわけねーだろ」