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 周囲をビルに囲まれた、薄暗くて小さな空き地。

 ここは、彼らのアジトといったところか。

 たぶん……大声を出しても、誰にも届かない場所だ。


「今はなんもしねえから、安心しな」

「お楽しみは、アイツが来てからってか」


 男たちがゲラゲラ笑う声を聞いているだけで、吐き気がしてくる。

 怖い、というより、なにもできない自分が情けなくて、悔しい。

 顔をうつむかせると、ぎりっと奥歯を噛みしめる。


「うわっ。ホントに来たぜ、あいつ」

 男たちの汚い笑い声が聞こえ、ゆっくりと顔を上げると、一人の制服姿の男子がこっちに向かって歩いてきているのが見えた。

「市川、くん……?」

「なにやってんだよ、山村。今日、バイトだろ?」

 場にまったくそぐわない、のんびりとした声が聞こえる。


 本当に、市川くんだ。


 彼の声だと認識した瞬間、涙が一粒零れ落ちる。


「愛されてんなー、おまえ。『市川くんは、市川くんだからいいんです』だってよ」

 わたしの声マネをして一人がそう言うと、他の男たちがゲラゲラ笑う。