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 山村のバイト先の本屋に、なぜか山村の姿が見当たらない。


 ……まさか、だよな?


 一瞬悪い予感が頭の中をよぎるが、んなわけねーか、と全力で否定する。

 普通にシフトが入ってなかったとか、どうせそんなとこだろう。

 別に山村に会いにきたわけでもないし、いなくたってなにも問題はない。

 お目当ての新刊は、無事ゲットできそうだしな。


「おかしいねえ。こんなこと、今まで一度もなかったのに。連絡もつかないの?」

「はい。さっきから何度か電話してみてるんですけど」


 レジでの精算中、少し離れたところで店員同士で話している声が聞こえてきた。


「——おい。それって、山村のことじゃねえよな」

 オレが話しかけると、店員の肩が揃ってびくんっと小さく跳ねる。

「おい、聞いてんだろ。さっさと答えろ!」

 焦りで思わず口調が荒くなる。


 こんなやつにしゃべってもいいものかと、二人が黙ったままアイコンタクトを取っている。

「君は——」

「オレは、山村のダチだ」

 間髪入れずにオレが言うと、名札に『店長』という文字の入った方の男が、もう一方の店員に向かって小さくうなずいた。

「たしかに、さっきの話はバイトの山村さんのことだよ。無断欠勤していてね。連絡もつかないんだよ。君は、学校のお友だち?」

「ああ……はい。そうっす。オレ、ちょっと心当たりあるんで、探してきます。たぶん、オレのせいなんで……すんません」

 頭を下げると、オレは全力で駆け出した。

「あ、ちょっと待って、君! 本、忘れてるよ!」

 レジの店員が大きな声でオレを呼ぶ声がしたが、戻っている時間すら惜しくて、そのままオレは店を出た。


 クソっ。なんでこんなことにっ。

 こんなことになるくらいなら、ずっと自分のそばに置いておくべきだった。


 ぎりっと奥歯を噛みしめる。


 あいつが怖い思いをしているんじゃないかと想像しただけで、心臓が信じられないくらいバクバクしてくる。


 ははっ。なんだよ、これ。

 山村……ごめんな……。