なんなの?

 市川くんのお友だちかと思ったのに、こんな言い方……。


「……市川くんは、いない方がいい人なんかじゃありません。市川くんは……市川くんだからいいんです」

 思わず震えそうになる声を必死に堪えて言い返す。


 たしかに、市川くんに睨まれただけで心臓が縮みあがるくらいには怖いけど、ワクワクしながらマンガの新刊を受け取る表情とか、読みながらコロコロ変わる表情とか。

 彼の表情のひとつひとつが愛おしい。

 そんな市川くんのことを、いない方がいい人だなんて……。

 自分の好きな物をちゃんと大切にできる市川くんのことを、そんなふうに言うなんて許せない。


「『もうケンカはしねえ』とか一方的に宣言して逃げ回りやがって。そんなもん、通用するかっつーの。こっちはやられっぱなしで終われねーんだよ!」

 ガンッ、とその辺のゴミ箱を蹴り倒す音に、思わず小さく悲鳴が漏れる。

「だからね。今、アイツの大切にしてるもん、一個ずつ潰してってるとこ。悪いけど、ちょっと俺らに付き合ってくれる?」

 大男がわたしの顎に手をかけると、にこりと冷たい笑みを浮かべる。


 ああ……背筋が凍りつくほどの恐怖って、こういうことを言うんだ。


 わたしの本能が、MAXの音量で警告音を鳴らしている。

 だけど、助けを求めなきゃって思うのに、声すら出ない。


 いったいわたし……どうなっちゃうの?