「…見てたの?ていうか、聞いてた?」
そうだった。
私がピンチの時は、どこからともなく現れて助けてくれる。
今も昔も変わらない薫を見て、少し安心した。
「お前がわざとらしく体当たりしてんのは見てた。理由は?」
「……わざと、じゃないよ?」
「嘘つけ」
「理由なんかない」
「んな訳ねーだろ」
教室に近づくにつれて、廊下を歩く生徒の数も増えていく。
薫は私にしか聞こえないようなボリュームで喋っているけど、ずっと“薫”のままだ。
「もう、うるさいなぁ。私の保護者?」
「は?」
「ていうかっ、いつまでソレなの」
「何が」
「バレるからっ」
私はがっしり掴まれていた腕を引き剥がした。
キョトンとした顔で私を見る薫…いや、カオル?
「…バレるって?何が?誰にどうバレるの?」
ニッコリ笑うと、カオルの声でそう言った。
確かに、バレるって何だ。
薫は別に男であることを隠してる訳じゃない。
みんな、生物学的には男だと認識した上でカオルと接している。
きっと私が、バレてほしくないって思ってるんだ。
彼が“薫”として振る舞うのを、見られたくないって。
あの3人組みに偉そうに喧嘩売っておいて。
本当は私が一番、カオルの姿を受け入れられてない。
でも薫が私のスーパーヒーローなのは、ずっと変わらなくて…。
「えっと、…」
言葉を探す私に、また耳元で鼓膜を揺らす薫の声。
「心配しなくても、お前以外にオスは出さねーよ」
「?!なにっ…どういう…」
どういう意味?!
動揺する私をよそに、ニヤリと笑ったカオルは「じゃーねっ♪サエちゃん」と手を振って自分の教室に入っていく。
ほんっと。
なに考えてるかさっぱりわからない奴。
だけど…。
ちょっとだけ、期待して、勘違いしてもいいのかなと思った。
そんな朝。
end