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「なぁ、見た?アレ」


校門を入って、目の前を歩く男子生徒3人組の会話が耳に入った。


「アレ?…あー、見た見た。顔面偏差値やべーよな」

「声も可愛いしな。お前有り?」

「いやぁー、無し無し。絶対あれ女子と仲良くなりたいだけじゃね?」

「ハハ、それだけであの格好する?ど変態じゃん」

「変態っつーか…変人だろ。気持ちわりぃよ、市倉薫」





気色悪い会話。

薫は、いつもこんな事を言われているんだろうか。

有りとか無しとか言ってるアンタたちの方がよっぽど気持ち悪い。

誰がどんな格好しててもいい。

人には色んな過去や葛藤があるんだよ。

薫のこと何も知らない奴らがしょーもない陰口言うな。




彼らの後ろを歩いていた私は、下駄箱まで来たところで小走りで追い越した。

追い越す時。
明らかに人混みでも何でも無かったけれど、よろけたフリをして背負っていたリュックで3人組みに体当たりをしておいた。



「痛って…」



我ながら陰湿な自分の行動に、3人の視線を感じたけれど、無視して自分の下駄箱へと歩いた。




「何アイツ」

「あ。あの子、市倉とよく喋ってる…」

「マジ?会話聞いてた?怖っ」


ヒソヒソ話してるつもりかもしれないけど、丸聞こえだ。


「あ!あの子も男なんじゃね?市倉と同類。女子の格好した男」


何が面白いのか。
ギャハハと笑う笑い声が耳障り。


「お前確かめてきたら?」

「はぁ?何でだよ」

「ぶつかったフリすれば触れ……」




下品な会話を続ける彼らの声が止まったのでチラリと視線を向ける。



「私でよかったらお相手するけどー?」





3人組みの前にヒョコッと顔を出したのは、ストレートロングヘアスタイルのカオルだった。

初めて見るウィッグだな、とか思いつつ。

私からは後頭部しか見えないから、どんな表情をしているのか分からない。


「…市倉…、おっす」


先頭にいた男子生徒は苦笑いでそう挨拶をした。


「3人まとめて相手してもいいケドさぁ?キミたちみたいな女性経験のないお猿さんが私の事満足させられるのカナー?」





周りの女子生徒の冷たい視線も相まって、みるみる顔が赤くなっていく3人。




「う、うるせぇブス!」


男子生徒は捨て台詞のごとくそう言って逃げるように立ち去った。



「アハ。何アレ、小学生?」


ヒラヒラと手を振って楽しそうに見送ったカオルはその笑顔を貼り付けたままクルッと私の方を振り返った。


「サーエちゃーん」


腕を絡めるように密着してきたカオルはそのまま私と隣に並んで歩き出す。



「カオル、お…」

おはよう、と挨拶をしようとしたら、貼り付けた笑顔とは正反対に不機嫌そうな薫の声が降ってきた。



「男3人相手にケンカ売る奴がどこにいんだよバーカ」